三越時代からマンガ描いてた
2025年前期の連続TV小説『あんぱん』では、「柳井嵩(演:北村匠海)」と「のぶ(演:今田美桜)」が上京してから、作中で10年以上の月日が流れています。18週目で嵩がのぶを追って東京に来て以降、出番がなくなってしまったのが、ふたりが1946年からわずかな期間働いた「高知新報」の仲間たちです。
『あんぱん』第14週から第17週にかけては、高知新報でいろいろな出来事がありました。この間、柳井夫妻が所属していた「月刊くじら」編集長の「東海林明(演:津田健次郎)」や、編集部員「岩清水信司(演:倉悠貴)」、のぶの同期で親友の「小田琴子(演:鳴海唯)」など、いろんなキャラが人気になっています。もう一度彼らの登場を期待したいところですが、「史実」はどうだったのでしょうか。
物語のモデルである『アンパンマン』の生みの親、やなせたかしさんと妻の暢さんは、1946年から1年ほど高知新聞社に在籍しており、「月刊高知」編集部で知り合いました。『あんぱん』と同じく、暢さんが社会党の代議士の秘書になるため、1946年末に先に上京しています。すでに暢さんと恋仲になっていたやなせさんは、半年後の1947年の夏に高知新聞社を辞めて東京へ行きました。
その後、古巣との関係はどうだったのでしょうか。実は、やなせさんは生涯にわたって高知新聞とかかわりが深く、上京して三越に入ってからも、マンガや手記を寄稿していました。
さらに、1957年から2年にわたり『マックロちゃん』という4コママンガを描いたり、1989年から17年連続で高知新聞主催の「黒潮マンガ大賞」の審査員を務めたり、1999年から2013年に亡くなる直前まで「オイドル絵っせい」という隔週連載を持ったりもしています。また、退社後の1948年から1950年にかけて、何度か「月刊高知」の表紙として暢さんに似た女性のイラストを描いていました。
東海林のモデルである「月刊高知」編集長の青山茂さんは『マックロちゃん』連載の際に、やなせさんと手紙のやり取りをしており、退社後も彼のよき理解者だったそうです。青山さんの自宅から、やなせさんが自身のマンガ『メイ犬BON』の宣伝を頼む手紙も見つかっています。ちなみに、青山さんは「月刊高知」廃刊後、「こども高知新聞」の編集長を務めました。
そのほか、岩清水のモデルである品原淳次郎さんは、1947年9月に東京出張した際、やなせさんと暢さんから手厚く歓迎されたといいます。その出張での取材には三越に務める前のやなせさんも同行し、当時の品原さんの手記には、やなせさんが「何かつかれた感じ」の雰囲気だったこと、上京して半年ほどの暢さんがしっかりと東京人らしくなっていたことなどが記されていました。
品原さんはのちに、高知新聞の文化部長や社会部長、東京支社長などの重要な職を務め、1970年代には高知放送の番組でニュースキャスターにもなっています。高知新聞の紙面でやなせさんと対談したこともあったそうで、『あんぱん』では岩清水が出世した姿で再登場するかもしれません。
そして、琴子のモデルで、暢さんの同期として「月刊高知」創刊前に一緒に色んな現場を回っていた深田貞子さんも、生涯にわたって暢さんと交友があったそうです。深田さんも1947年、結婚を機に高知新聞を辞めています。やなせさんが『アンパンマン』を発表したあと、1980年代にやなせさんがいるスタジオを訪れたこともあったそうです。ちなみに、深田さんの結婚相手は高知新聞の編集局長をしていた、中平正明さんという方でした。
史実に比べると、嵩たちと高知新報のつながりは薄くなってしまっていますが、その分、高知新報メンバーの再登場があれば盛り上がるのではないでしょうか。再び現れるとき、琴子は結婚しているのか、岩清水は出世しているのか、気になるところです。
参考書籍:『人生なんて夢だけど』(フレーベル館 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)、ムック『やなせたかし はじまりの物語: 最愛の妻 暢さんとの歩み』(高知新聞社編集)
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