体重を増やして役作りをした大森元貴
『Mrs. GREEN APPLE』の大森元貴(28)が、朝ドラ『あんばん』(NHK)で昭和歌謡史に燦然と輝く名曲を披露する場面が登場。数日たった現在も、SNSでファンが余韻にひたる投稿をするなど反響が続いており、ファンならずとも視聴者の心をわしづかみしている。
本作は『アンパンマン』の生みの親・やなせたかしと暢夫婦がモデル。大森は昭和のヒットメーカー、いずみたくをモデルにした“いせたくや”役で出演した。
第99回では、『見上げてごらん夜の星を』をアカペラで独唱。第101回では、ピアノを伴奏しながら『手のひらを太陽に』を歌唱した。そのシーンはまさに鳥肌ものと言っていい。
「大森は3キロから5キロ体重を増やして、いつもよりふっくらした顔立ちでいせたくや役に挑戦。二つの曲の収録は同じ日の朝一番に行われ、ストレッチなどでノドの調子を整えた後、ほぼ一発撮り。圧巻のパフォーマンスを披露しました。役どころが、あくまでも作曲家であることから、Mrs. GREEN APPLEの時とは違う低いキーで歌唱。見学に来ていたいずみたくさんの親族も感激して涙を流していました」(制作会社ディレクター)
今作でいずみたくが作った国民的な名曲を歌うにあたって、
「音楽は人の心を救い鼓舞させるものであるという、エンタメが持つ力を信じている点では、僕とすごく通じる部分がある」
「楽曲が生まれることの偉大さや難しさが多少なりとも分かっている身として、責任を持って演じよう」
大森はそんな思いを口にしている。
『見上げてごらん夜の星を』は1960年に初演された和製ミュージカルの原点。1963年に歌手・坂本九が出演して再演。坂本主演で映画化もされ、楽曲も大ヒットした。第5回日本レコード大賞作曲賞に輝き、坂本は『NHK紅白歌合戦』でも熱唱している。
「大森が『見上げてごらん夜の星を』を歌ったその週の8月12日は、奇しくも日航ジャンボ機墜落事故で坂本九さんが命を落として40年の節目の年。しかも歌唱シーンが登場したのが8時12分であったことから、SNSでは大きな注目を集めました」(前出・ディレクター)
しかし話題を呼んだのは、それだけではない。
湖畔で拾ったカセットテープをかけると……
大森が『見上げてごらん夜の星を』を熱唱する姿を観て、あの名作ドラマを思い出した。
それが、明石家さんま(70)と木村拓哉(52)がW主演した月9ドラマ『空から降る一億の星』(フジテレビ系)である。
「“恋愛の神様”北川悦吏子が手掛け’02年春期に放送された『空から降る――』は、平均視聴率22.6%をマーク。特に悲劇的な結末を迎える最終回は、平均視聴率27.0%を記録するほど大きな注目を集めました。その中で切なくも哀しい調べとなるのが、坂本九が歌う『見上げてごらん夜の星を』です」(制作会社プロデューサー)
兄妹と知らずに愛し合ってしまった涼(木村)と優子(深津絵里)。だが涼が父・完三(さんま)に復讐するために近寄ってきたと勘違いして、優子が涼を射殺。残された手紙を読み、真実を知った優子は絶望のあまり涼を抱き、湖面に出て小舟の上で自殺を遂げる。この衝撃的なシーンは、今も多くの視聴者の心に残っている。
しかも木村が演じる涼は、金銭目的で女性に近づき、由紀(柴咲コウ)や美羽(井川遥)を使って邪魔者を亡き者にするダークヒーロー。そんな涼の哀愁を帯びた佇まいは、当時“何を演じてもキムタク”と言われた木村拓哉にとって、新境地を切り開くきっかけにもなった。
「後から駆けつけるも間に合わなかった完三が、湖畔で拾ったカセットテープを一人、車の中で再生する。そのときに流れる坂本九さんの『見上げてごらん夜の星を』に涙を流す完三。時代を超え、名曲が悲劇的なクライマックスを彩りました」(前出・プロデューサー)
朝ドラ『あんぱん』を手掛ける中園ミホと、『空から降る一億の星』を手掛ける北川悦吏子。平成を彩った好敵手が、期せずして取り上げた『見上げてごらん夜の星を』。昭和から平成、令和と時代を経ても、名曲の輝きが失われることはない――。
文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)
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