大村崑 大人は鬼に、子供は犠牲に 神戸大空襲の翌日、素手で遺体を棺桶に 15日80回目の終戦記念日

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 【戦後80年 あしたのために】昭和から平成、令和をまたぎ、きょう15日に戦後80年の節目の終戦記念日を迎えた。“元気ハツラツ!オロナミンC”のCMで一世を風靡(ふうび)した喜劇俳優の大村崑(93)は幼少期に父を亡くして一家離散を経験。伯父宅に身を寄せていた最中の神戸大空襲では「戦争で人は人でなくなる。鬼になる」という理不尽な体験をした。

 終戦を迎えたのは13歳の時。大人がラジオの玉音放送を土下座しながら一言も発さず静かに聞き入る中、大村の心中にはまったく別の思いがあった。

 「これで白いご飯が食べられる」

 ひもじい生活からやっと解放される――。ただ、厳しい現実という壁の前に、そんな夢物語はすぐ消え去る。

 「戦後も食べ物はない。物資もない。だから、泥棒のようなこともやった。かばんと下敷きを持って倉庫に忍び込んで、麦や米をすくって持ち帰って、みんなで食べて何とか生き残ったんだよ」

 そう語った後にこう漏らした。

 「戦中はもっとひどかったけどね…」

 米軍の激しい空爆に列島各所がさらされていた1945年。大村が生まれ育った神戸市ももちろん例外ではなかった。9歳の時に父が急死。同じ市内の父の兄に引き取られ、母、弟、妹2人とは離れて暮らしていた。

 「空襲警報が鳴ると(戦略爆撃機)B29がいなくなるまで商店街や学校近くにある防空壕(ごう)に逃げ込んだ。大阪の空が真っ赤に染まった日があり、翌日には神戸も…。死体が運河の所々に浮かんでいたのを覚えているよ」

 特に大きな被害を出したのが死者7524人、被災家屋14万戸超の記録が残る神戸大空襲(3月17日と6月5日)。記憶に鮮明な3月の出来事について語り始めると、声のトーンが一段上がった。

 「自宅は幸いにも無事やったけれど、街は一面、焼け野原。翌日、登校したらいきなり先生に他の生徒と一緒にトラックに乗せられてね。荷台は棺桶(かんおけ)だらけやった」

 十三重塔がある清盛塚で降ろされると視界に入ったのは路上の無数の遺体。「じゃまだから片付けろ」と命じられるままに、頭も顔も焼けて性別すら不明の亡きがらを、軍手も渡されないため素手で棺桶に入れていった。

 「学校に戻ると、鉄製の櫓(やぐら)の上で棺桶を焼いて、その後は骨を箸で拾って、ドンゴロス(南京袋のこと)に入れていくんです。最初はショックやったけど、1週間もやると慣れてくるんだよ。想像できんでしょ?」

 畑になっていた学校のグラウンドでは野菜を育てていたが、心ない行為にがくぜんとする出来事もあった。収穫時期を楽しみにしていたトマトがある日、こつぜんと姿を消した。

 「用務員さんに“えらいこっちゃ。先生に怒られる”っていったら口元押さえてシーってしながら“お前の先生が持って帰ってしまった”と」

 路上に落ちていた夏みかんの皮を食べるために拾おうとしたら、大人の男性にその手を踏みつけられて強奪されたこともあった。80年の時を経ても脳裏から消えない当時受けた理不尽の数々、子供だったが故に何もできなかった自身の無力さ。

 「戦争で人は人でなくなる。先生も周囲の大人も、みんな鬼になる。そして最後は子供が犠牲になるんです」

 焼夷(しょうい)弾が顔に当たって鼻がもげてしまった親友は、後に自ら命を絶った。「今でも涙が止まらない。戦争さえなければ、ってね…」。忘れたくても忘れられないような凄惨(せいさん)な記憶を、次代の若者にも抱かせるわけには…という思いは強い。

 「これまでは原爆を脅しに使ってきたが、まさか実際に使おうとする危ない時代がきてしまうとは…。世界中の国を動かすトップが何とかしないと」

 人が人でなくなる「戦争」が、世界から消えることを願っている。(窪田 信)

 ≪すぐそばで機銃掃射≫戦時中に大村自身が死と隣り合わせになる場面が何度かあった。山に先生、友人らと山桃をとりに行った最中に「操縦士の顔もはっきり見えた」ほどの距離から米軍機の機銃掃射を受けたが、近くにあった土管に何とか逃げ込んで九死に一生を得た。学校で満州国境警備の少年隊募集があり、願書を出そうとしたが同居の伯母に止められた。「志願した同級生4人は終戦後、帰ってこなかった。あのとき、僕がその道を選んでいたら…と考えると複雑やね」と正直な思いを明かした。

 ◇大村 崑(おおむら・こん)本名岡村睦治。1931年(昭6)11月1日生まれ、神戸市出身の93歳。57年に大阪の映画館「北野劇場」の専属コメディアンとしてデビュー。テレビの黎明(れいめい)期にコメディードラマ「番頭はんと丁稚どん」「頓馬天狗」などで全国的な人気者に。コメンテーターとしても活躍。日本喜劇人協会の8代目会長(現相談役)。2017年に旭日小綬章を受章。

 ≪武道館で追悼式≫15日には政府主催の全国戦没者追悼式が東京・日本武道館で開かれる。天皇、皇后両陛下、石破茂首相、戦没者遺族が参列し、犠牲者約310万人を悼む。厚生労働省によると、参列予定の遺族は約3400人で、うち戦後生まれが約1800人と初めて半数を超える見込み。また戦没者の配偶者の参列はコロナ禍だった21年以来のゼロになる見通し。厚労省のまとめでは、15日は全国各地で関連行事が行われ、計約3万9000人が参列を予定している。

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