
(朝日新書・990円)
集団的自衛権 戦略的判決文の意図は
スリルに満ちた法廷ドラマはテレビの中だけだと思っていた。だが、2023年12月5日、安保法制違憲訴訟で仙台高裁が下した判決の真の意図に迫ろうとした本書を読んで、ここにもドラマがあったのだと知った。
まずは本書に登場する3名のプロフィールを見ておこう。長谷部は2015年6月、衆議院憲法審査会に参考人として出席し、もし貴方が裁判官だったら安保法制をどう判断するかと訊(き)かれ、違憲だと即答した憲法学者だ。3名の参考人全員が違憲と答えた場面をご記憶の方もいるだろう。棚橋は、安保法制違憲訴訟全国ネットワーク事務局長を務めた強者(つわもの)弁護士で、仙台高裁の法廷では長谷部証人への主尋問を担当した。
豊(ゆたか)・朝日新聞編集委員もただ者ではない。集団的自衛権の部分的行使を容認した14年の解釈変更に対し、反対の声をあげた元内閣法制局長官らや元最高裁長官の主張を次々と記事にし、抗議のため国会前に結集した人々に理論的支柱を提供した。もう1名、忘れてはならない人物がいた。仙台高裁判決を書いた小林久起(ひさき)裁判長その人だ。だが小林は2024年4月、致死性不整脈によって急逝する。
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