鴻巣友季子・評 『ことばの劇場』『ミュージカルの「現在」』

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 ◆『ことばの劇場』=長谷部浩・著(論創社・4180円)

 ◆『ミュージカルの「現在」』=小山内伸・著(河出書房新社・2970円)

舞台は「瞬間」で終わらない 心に沈む

 演劇とミュージカルの評論書二冊に接し、メディアを超えた「瞬間」の記録と、その思索の道のりと情熱に打たれた。

 ひとの生を模倣し再現するあらゆるアートは人間が死に向かうための準備ではないか。それは、死、あるいは死による己の完全消滅に対抗し、同時に他者の存在を記録し継承する営為だと思う。

 文学と演劇の決定的な違いと言えば、前者は保存と複製がきくのに対し、演劇はその世界がひとときで魔法の如(ごと)く消えるということだ。しかし『ことばの劇場』の著者は言う。「舞台を観(み)て、一晩寝れば、その記憶は消え去るものでしょうか。いえ、時間とともに発酵して、その経験は心に沈んでいきます」と。

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