
「ええ、もちろんそう言うでしょう。そう言うことになっていますから。この世界はすぐに消えて行く泡沫(ほうまつ)としての世界だった。あなた方のちゃんとした世界とは真逆の存在です。それが、ここまで生き残り、発展していることすら、とてもイレギュラーなことなのです。ですが、そんなイレギュラーな、危うい世界に自分が生まれたなどということは、誰も知りたくないでしょう。真実を知る者は、ごく少数で良い。後の者は、この世界がとてもちゃんとしていて、ちゃんとした世界を守るために誇りをもって研究を進めてほしい。それもまた原初の博士の祈りでもありました」
僕はなんとなく掌(てのひら)を見つめ、それから、空を握ってみた。原初の博士がこの世界に溶け、あらゆる場所に遍在しているのだとしたら、今掌の中にあるこの空にも彼はいるということだろうか?
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