事件の裏の人間模様/「ご遺体」と向き合うプロ=西上心太

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 城山真一『金沢浅野川雨情』(光文社)は、金沢の茶屋街が舞台のミステリーだ。当地で人気と実力を誇るベテラン芸妓(げいぎ)なつ江の遺体が発見され、強盗殺人が疑われる。

 本書の最大の特徴と魅力は、殺人事件を縦軸にしながら、その捜査内容があまり描かれない点にある。第1章の視点人物は水引細工職人の中年男だ。離婚経験のある彼は店主の母に頭が上がらず、女性従業員の朋代との再婚話も切り出せないでいる。そんな折、事件現場付近で朋代が中年女性と会っていたという証言がもたらされる。

 第2章は警察に出向いていった料理長の身を案じる板前の目から進行する。彼は喫茶店で、料理長となつ江が男女の仲のもつれとも取れるような会話をしていたのを耳にしていた。以下、なつ江が贔屓(ひいき)にしていた和菓子店の主(あるじ)、友人の老人福祉施設経営者、なつ江と同期のお茶屋の女将(おかみ)、酒蔵経営者の娘など、章ごとに視点人物が変わっていく。そしてどのパートにおいても、親子関係の確執などが絡んだ、家…

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