【死ぬまでにやりたいこれだけのこと】
大島花子さん
(シンガー・ソングライター/51歳)
今月12日は、父である坂本九さんの飛行機事故死から40年。歌手の大島花子さんのやりたいことは、父の最後の曲にして多くの人に歌われてきた「心の瞳」を伝えていくことだという。
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私が小学校6年生の時でした。その日「新しい曲ができたから聴いて」と父が曲を持って帰ってきたんです。私が物心ついてから、父が新曲を持ってくることは初めてでした。
当時はレコードでしたから、A面、B面の候補の2曲があり、「ユッコ(柏木由紀子)が聴いたら感動して泣いちゃうと思うよ」と父が言った曲が「心の瞳」。聴くと母も私も妹(歌手、女優の舞坂ゆき子)も「A面にはこれがいい」となったんですが、結果的に「心の瞳」はB面になりました(A面は「懐しきlove-song」)。
子どもながらに「いい歌だなあ」と。私は幼稚園からピアノを習っていましたから、父にはピアノの伴奏で歌ってほしいなと思いました。でもその後、1985年に事故で亡くなってしまいました。
葬儀の時に「心の瞳」の歌唱部分だけをレコードから取り出して、私が父の歌声に合わせてピアノを弾き、共演という形で、参列していただいた方々に聴いていただきました。悲しさよりは大勢の前で務めを果たすことに必死だったように記憶しています。
当時「B面」だったこの曲がやがて音楽の教科書にも載るように
事故の直前にラジオの歌番組の収録があり、父は「心の瞳」を歌ったんです。その放送を聴いた学校の先生が合唱曲として譜面におこされて、それが発端でいろんな学校で合唱されはじめ、やがて音楽の教科書に載るようになりました。
その後もいろんな合唱団やママさんコーラスで歌っていただいたり、多くのシンガーの方がカバーしてくださった。発売当時はB面になったこともあって、こんなに多くの人に歌われる曲になるとは思いませんでした。
2004年には母と私と妹でレコーディングして、その後クリスマスに3人で行うコンサートで歌うようになりました。17年にはプロデューサーの方にご提案いただき、オリジナルの音源に、私たち3人がコーラスをかぶせたバージョンを父のベスト盤CDに収録させてもらったりしました。
もともとは「妻に向けたラブレターのような歌を歌いたい」と父がリクエストして作られた曲という話も聞きましたが、私としては父が持って帰って聴かせてくれた、父との思い出の曲でもあるんです。
わが家はお互いに曲をプレゼントすることがありました。例えば、私は2、3歳の頃に赤い風船が好きで、父が「レッドバルーン」というキッズソングみたいな曲を作ってくれたり。レコーディングするようなちゃんとしたものではなくて、父がギターの弾き語りでテープに録音して聴かせてくれました。逆に母が作った「パパ大好き」という曲を妹と歌ったり。
音楽が日常にあった環境でしたし、父との曲のやりとりが私のシンガー・ソングライターの原点なのかなと大人になって感じました。ちなみに「レッドバルーン」は私がのちに音源化しました。
この先にやりたいことは「心の瞳」を若い世代に受け継いでいくことですね。そして坂本九という歌手のことも若い人たちに知ってほしい。
韓国で日本の名曲を紹介するライブができたら
今は社会福祉などのさまざまな講演をやらせてもらい、私が子ども時代に突然父を失う経験をして命の大事さを知ったこと、父との思い出や父のやってきたことをお話しさせていただいています。
講演では「心の瞳」も歌うので、若い人から「心の瞳を通じて家族や愛について学びました」という声もよくいただきます。若い方にもグッとくるところがあるようです。「泣ける歌」みたいで(笑)。今後はコンサート込みの講演を学校でもたくさんやりたい。
ギターの方と2人で、もしくはカラオケでいろんなところを歌って回る活動もしていて、この取材の前日は高齢者施設で歌いました。保育園で歌うこともあります。
聴いていただく年代の幅が広いですが、歌を聴くと表情が変わるのは同じなんです。90代の方も小さい子でも、音が鳴った瞬間に表情がパッと明るくなる。その瞬間を見られるのが私はすごく楽しい。
父の「上を向いて歩こう」は高齢な方はみなさん歌ってくれますし、子どもも意外と知っていて歌ってくれますよ。私としてはいろんな年齢層の方たちのところへ歌いに行きたい。
ほかにやりたいことは、韓国語をマスターしたくて、今、勉強中です。韓国の歌やドラマが好きなことがきっかけですが、ゆくゆくは韓国でライブができたらという夢を持っています。日本の名曲を紹介したいですね。
かつて「上を向いて歩こう」が日本語のまま全米チャート1位になりましたが、歌詞はわからなくても、いいなあと感じてくださるんですよね。だから海外で歌ってみたいです。加えてその国の言葉でも歌えたら最高ですよね。韓国語を勉強中なので、韓国ではMCも頑張りたいです。海外で「上を向いて歩こう」や「心の瞳」を歌い、父の歌を海の向こうにも広めていきたいですね。
(聞き手=松野大介)
▽大島花子(おおしま・はなこ) 1973年10月、東京都出身。92年にミュージカルでデビュー。2000年代からアーティストとして活動。14年にアルバム「柿の木坂」リリース。11月21日、南青山BAROOMでコンサートを開催。
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