邦画でアニメに続いて海外で勝負できるジャンルがあるとすれば、ホラー映画に違いない。すでに「リング」(中田秀夫監督、1998年)や「呪怨(じゅおん)」(清水崇監督、2003年)がハリウッドでリメークされ、それぞれヒットを飛ばしたという実績がある。しかし2010年代以降、過去のJホラー(日本的ホラー)映画は、いったん消費され尽くされた感があった。
Jホラー再起の「本命」と見なされているのが、8月8日に公開される映画「近畿地方のある場所について」(俳優の菅野美穂さん、赤楚衛二さん主演)だ。この映画のどこがエポックメーキングなのかを原作者であり映画の脚本にも協力しているホラー作家の背筋さん、監督の白石晃士さんの談話とともに紹介したい。
映画「近畿地方のある場所について」は行方不明になったオカルト雑誌の編集者を、同僚の編集部員(赤楚さん)と女性記者(菅野さん)が捜すうちに恐るべき事実にたどり着く。すべての謎は「近畿地方のある場所」につながっていく――といった物語だ。
原作は累計70万部の大ヒット
背筋さん原作の単行本「近畿地方のある場所について」(KADOKAWA刊)では、さまざまな人物の視点からの証言や記録を継ぎ合わせていくうちに物語の核が浮かび上がるという構成をとった。フィクションではあるが、巻頭言、特集、連載記事などで構成される雑誌作りに近い感覚で成り立っている。単行本には「付録」を思わせる「袋とじ」まで用意されていた。
こうした工夫が読者の心をとらえ、単行本と文庫は累計70万部と、異例の大ヒットとなった。背筋さんは「単行本と文庫ではキャラクターの設定や話の筋を変えた。文庫化されると単行本が動かなくなるという出版界の常識を打ち破りたかった。文庫を読んでから単行本を買う読者もいるのではないか」という。結果、単行本の重版が続き、発売前の文庫の受注も増えたという。
「近畿地方のあ…
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