堤真一が山田裕貴とW主演する映画「木の上の軍隊」が、7月25日に公開された。井上ひさし原案の舞台を映画化した同作は、第二次世界大戦の激しい攻防戦が展開された沖縄の島で、2人の日本兵が敗戦を知らぬまま2年間も生き延びたという実話から着想を得た物語。堤は、宮崎から派兵された厳格な少尉・山下一雄を演じる。今回は、堤の代表作の一つである「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズが7月よりLeminoで配信スタートしたということで、同シリーズを中心に堤の魅力に迫ってみたい。(以下、出演作品のネタバレを含みます)
■坂東玉三郎の演技に感銘!裏方志望から俳優へ
1964年7月7日生まれ、兵庫県出身の堤。トークイベントやバラエティー番組などでは関西弁が飛び出し、親しみやすさを感じる人柄も人気の理由の一つだろう。
キャリアのスタートは、スタントマンを志して高校卒業後に故・千葉真一氏が創設したJAC(ジャパン・アクション・クラブ ※現:ジャパンアクションエンタープライズ)の養成所を経て正式入団したこと。真田広之の付き人を務めていた中で、真田が出演した舞台「天守物語」での坂東玉三郎の演技を見て、裏方志望から役者として舞台に関わる思いが芽生えたという。
1987年にJACを退団し、舞台を中心にした活動を始めた。デヴィッド・ルヴォー、野田秀樹ら国内外の演出家の作品に出演し、力をつけていく。1997年には野田による演劇企画制作会社「野田地図(NODA・MAP)」の公演「キル」と舞台「ピアノ」で、第32回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している。
■フジ“月9”ドラマなど映像でも注目される
映像では、映画「弾丸ランナー」(1996年)を皮切りに海外でも評価されるSABU監督がメガホンをとった5作品で主演していく中、和久井映見主演の“月9”ドラマ「ピュア」(1996年、フジテレビ系)で注目された。
次いで、松嶋菜々子主演の月9ドラマ「やまとなでしこ」(2000年、フジテレビ系)、深津絵里とW主演した「恋ノチカラ」(2002年、フジテレビ系)と、ヒロインの相手役を好演し大ブレイク。ヒロインとの恋愛過程をドキドキさせるような演技力と耳心地のいい低音ボイスで視聴者を魅了した。
■昭和の頑固オヤジ役で実力が認められ、さらなる飛躍
その演技力が名実共に認められたともいえるのが、昭和33年を舞台にした2005年公開の映画「ALWAYS 三丁目の夕日」だ。
堤は、小説家として芥川賞受賞を目指す主人公・茶川竜之介(吉岡秀隆)が営む駄菓子店の向かいにある自動車修理の鈴木オート社長・鈴木則文役。太平洋戦争から復員して起業した苦労人であり、“ザ・昭和”の頑固オヤジだ。
例えば、青森から集団就職で上京した六子(堀北真希)を受け入れるが、自動車修理の知識も技術もない六子に「詐欺だ!」と怒る。すると六子に、こんな小さい工場だと思わず「逆に詐欺」と言い返され、髪の毛を逆立てんばかりに激怒した則文。
ただ、実は六子が履歴書に書いていた得意なことは“自転車”の修理で、そもそも則文の勘違いだった。膝をついて「漢字、ちょっと読み違えてたみたいでな…」と謝罪しつつ、工場を大きくする熱い思いを語り、「協力してくれるな」と六子に願った。
“瞬間湯沸かし器”のような激情ぶり。しかし、情に厚く、六子を娘のように大切にし、普段はいがみ合う茶川のこともいざとなったら助けてあげる。そんな不器用でいとおしい人物を堤は魅力的に体現し、第29回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、同じく2005年公開の主演映画「フライ,ダディ,フライ」と合わせて第30回報知映画賞、第48回ブルーリボン賞など、同年度の映画賞を総なめにする勢いだった。
続編の「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007年)の冒頭では、則文が髪を逆立てて自分の大切な工場を破壊したゴジラに怒る、という茶川の小説案を映像化した楽しい始まりをけん引。またシリーズ完結作となる「ALWAYS 三丁目の夕日’64」(2012年)では、六子の結婚に、「まだ早い」と本当の親のようにやきもきする姿が尊い。
物語のコメディー部分を担うと同時に、ホロリとさせる心情も浮き立たせる。ともすれば過剰になりがちなところを、ビシッと物語に沿ったものにする塩梅が見事だ。
■コメディーからシリアスまで幅広い役をこなす名優
その後、ますます映画、ドラマ、舞台に欠かせない俳優の一人として活躍しているのは周知の通り。映画「容疑者Xの献身」(2008年)での天才数学者役や、ドラマ「とんび」(2012年、NHK総合)での息子を男手一つで育てる父親、ドラマ「妻、小学生になる」(2022年、TBS系)での妻を亡くして生きる意味を失った男性など、主演でも助演でも輝く存在感を放つ。
61歳になった2025年も、映画では1月に「室町無頼」が公開され、7月4日から「ババンババンバンバンパイア」が、7月25日からは「木の上の軍隊」も公開。今後は10月に「アフター・ザ・クエイク」、11月に「旅と日々」が公開される予定だ。
ドラマでは秋放送スタートの2025年度後期連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK総合ほか)に出演、また9〜10月にはライフワークにもなっている舞台「ライフ・イン・ザ・シアター」で中村倫也と二人芝居に挑むなど、出演作が引きも切らない。
コメディーからシリアスまで幅広い役をこなす堤。2023年公開の映画「おまえの罪を自白しろ」で共演した中島健人は、「お芝居のときの存在感、“圧”が圧倒的で」と堤の演技の印象を語っていた。圧倒的存在感で、まだまだ日本のエンタメを盛り上げてくれるはずだ。
◆文=ザテレビジョンシネマ部
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