「売り込んだことはない」「断るのが下手」 あんぱん・モデルのやなせたかしにいきなり訪れた「大物からの依頼」が凄すぎ

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経験がなくても引き受ける

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』95話では、『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんがモデルの「柳井嵩(演:北村匠海)」が「三星百貨店」を辞め、フリーになりました。史実では1953年3月に三越の宣伝部を辞めたやなせさんは、マンガの執筆以外に、「困ったときのやなせさん」と言われるほど、多岐にわたる分野で才能を発揮しています。彼に舞い込んだ依頼のなかには、「大物から突如やってきた大仕事」もいくつかあったそうです。

『あんぱん』95話の最後には次週、第20週目の予告が流れており、嵩が作曲家になった「いせたくや(演:大森元貴)」と、演出家「六原永輔(演:藤堂日向)」とともに、「日本で初めての日本人による日本人のためのミュージカル」を作ろうとする姿が描かれています。

 いせのモデルは、のちにやなせさん作詞の名曲「手のひらを太陽に」を生み出す作曲家のいずみたくさん、六原のモデルは20代から作詞家、構成作家、タレントとマルチに活躍した永六輔さんです。やなせさんとこのふたりは、1960年に名作ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』を作り上げます。3人とも、ミュージカルに関わるのは初めてでした。

 永さんはある日、面識のなかったやなせさんの家をいきなり訪れ、大阪のフェスティバルホールで行う『見上げてごらん夜の星を』の舞台装置、美術の仕事を頼んできたそうです。そして、やなせさんは『見上げてごらん夜の星を』の現場でいずみさんと初めて出会い、長年ともに仕事をする仲間となります。

 ちなみに、永さんが舞台美術の経験がなかったやなせさんに仕事を依頼したのは、以前やなせさんが雑誌で女優の丹下キヨ子さんのインタビューを担当した記事のなかに、永さんのことをほめる一節があったからでした。ほめたのは丹下さんですが、永さんは初めて雑誌で名指しで称賛されたことがうれしかったため、記事を書いたやなせさんと仕事がしたいと思ったそうです。

 ほかにも、やなせさんのもとにやってきた意外な依頼は多数ありました。やなせさんは自著『人生なんて夢だけど』(2005年/フレーベル館)で、漫画家以外にさまざまな仕事をしてきた理由について、

「わかりません。自分でやりたいと言ったり、売り込んだりしたことは一度もありません。突然見知らぬ人が訪れてきて、やったこともない仕事を押しつけるんですね。一度や二度ならともかく、あまり回数が多くなると、それが自分の運命とあきらめることになる。血液AB型は断るのが下手なんですよ」

 と、自分でも不思議がるように語っています。そして、「それに難しい仕事や未知の仕事には、好奇心と冒険心をそそられる」とも述べていました。

 ほかの例をあげると、やなせさんは『漫画読売』という雑誌で一度インタビューしただけの歌手の歌手の宮城まり子さん(『あんぱん』では久保史緒里さん演じる「白鳥玉恵」として登場予定)から、1958年の初リサイタルの構成を頼まれたこともあります。のちに宮城さんは、「手のひらを太陽に」の歌唱を担当しました。

 また、95話で初めて嵩と会話した天才漫画家「手嶌治虫(演:眞栄田郷敦)」のモデルである手塚治虫さんも、1967年10月に電話でやなせさんにアニメ映画『千夜一夜物語』(1969年)の美術、キャラクターデザインの仕事を頼んでいます。「漫画集団」という団体で数度顔を合わせたことがあるだけの手塚さんからの依頼を、やなせさんはアニメの知識がほぼないなかで引き受けたそうです。

 さらに意外な仕事では、やなせさんが「マンガの先生」としてレギュラー出演していたNHKの番組『まんが学校』(1964年〜66年)も、突如自宅に来たNHKのディレクター丸谷賢典さんから頼まれたものでした。やなせさんは3年間もNHKの全国放送番組に出たため、子供たちを中心に一気に知名度が上がって戸惑ったことを振り返っています。

 やなせさんは『千夜一夜物語』の現場で自分の「キャラクターをたくさん考える」才能に気付き、『まんが学校』で子供たちに絵の描き方を教えて人気を得たことで、子供向け雑誌の仕事の依頼が来るようになったことも語っています。そういったさまざまな仕事が、最終的に多くの子供たちを魅了する『アンパンマン』誕生につながったともいえるでしょう。

『あんぱん』では嵩がどんなマルチな活躍を見せてくれるのか、どこまで史実をなぞるのかにも注目です。

参考書籍:『人生なんて夢だけど』(フレーベル館 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)、『アンパンマンの遺書』(岩波書店 著:やなせたかし)

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