『あんぱん』なぜ嵩のもとにミュージカルの仕事が? 史実では永六輔がやなせたかしに「意外な理由」で頼んでいた

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戦地で劇をやったこともあったが

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の98話(8月13日放送)では、作曲家「いせたくや(演:大森元貴)」が、「六原永輔(演:藤堂日向)」を連れて、「柳井嵩(演:北村匠海)」の家を訪れることが予告されています。ふたりは嵩に、夜間学校に通う高校生たちを描いた青春ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』の舞台美術の依頼をするようです。

 嵩のモデルは『アンパンマン』の作者であるやなせたかしさん、いせはやなせさんとさまざまな仕事した作曲家のいずみたくさんをモデルとしています。そして、新たな登場人物、六原のモデルは20代からラジオやTV番組の企画、演出を多数行い、構成作家、作詞家、タレントとしても人気を博した永六輔さんです。史実では、永さんがひとりでいきなり、やなせさん宅にやってきたそうです。

 やなせさんは、永さんの訪問のことをいくつかの著書で振り返っています。1960年のある日、永さんは面識のなかったやなせさんの自宅を突如訪れ、「今度大阪フェスティバル―ホールで、ぼくの作、演出で労音ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』をやります。ついてはその舞台装置をお願いしたい」と言ってきました。

 やなせさんはすでにTVでも活躍していた永さんのことを知っていたものの、なぜ舞台の仕事の経験もない漫画家の自分に依頼をしてきたのか、不思議に思ったそうです。やなせさんはかつて終戦から半年ほど上海郊外で暮らした時期に、兵隊の娯楽用の劇の演出や台本を手がけたことはありましたが、正式な仕事として劇に関わるのは初めてでした。

 実は、永さんは以前やなせさんが雑誌で女優の丹下キヨ子さんのインタビューを担当した記事を読み、そのなかに永さんのことをほめる記述があったたため、やなせさんに依頼をしたそうです。永さんをほめたのは丹下さんですが、初めて雑誌で名指しで称賛されたことがうれしかった永さんは、記事を書いたやなせさんと仕事がしたいと思ったのでした。

 そして、永さんに「大体の設定はぼくがやりますから、それじゃお願いします。スタッフ会議に出席して下さい」と強引に誘われ、やなせさんが現場に行ってみると、舞台装置はすでにほぼでき上がっていたそうです。やなせさんはしかたなく、装置を泥絵の具で塗り直しました。この際は、三越宣伝部時代の看板を書いた経験が活きたといいます。

 そうして完成したミュージカル『見上げてごらん夜の星を』は、1960年7月に初演され、大好評となりました。1963年には同題の主題歌が坂本九さんによって歌唱され大ヒットし、同年に坂本さん主演で映画化もされています。

 また、やなせさん本人は「舞台監督がよかったのである。ぼくの功績ではない」と謙遜していたものの、初演時は舞台装置も「童話的で美しい」と好評を博しました。その後、やなせさんは永さんと何度か舞台の仕事をし、演出や台本の書き方、作詞の仕方も学んだそうです。

 そして、やなせさんは『見上げてごらん夜の星を』に関わったおかげで、同作の作曲を担当していたいずみさんと出会い、生涯の友となります。ふたりは1961年にやなせさん作詞、いずみさん作曲で名曲「手のひらを太陽に」を作りました。さらに、いずみさんは『怪傑アンパンマン』(1976年)から始まるミュージカル版『アンパンマン』シリーズや、やなせさんの絵本『チリンの鈴』のミュージカルの作曲も行い、1992年に亡くなるまで、アニメ『それいけ!アンパンマン』の音楽も担当しています。

『あんぱん』では嵩といせは1940年代から知り合っていますが、『見上げてごらん夜の星を』でより絆が深まることになるのでしょう。『手のひらを太陽に』誕生のエピソードが描かれるのも近そうです。

参考書籍:『人生なんて夢だけど』(フレーベル館 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)、『アンパンマンの遺書』(岩波書店 著:やなせたかし)

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