近藤譲の唯一のオペラ「羽衣」を日本初演 サントリー音楽賞受賞記念コンサート

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海外でも評価が高い作曲家、近藤譲(77)の唯一のオペラ「羽衣」が8月28日、第55回サントリー音楽賞受賞記念コンサートで日本初演される。1994年、フィレンツェ五月音楽祭の委嘱で作曲、世界初演された作品で、日本での上演が熱望されていた。近藤は「能の『羽衣』を題材にしていますが、たぶん能の要素は感じられません。当時のイタリアの聴衆の反応は『日本的だ』『まったく日本的でない』と分かれました。聴きどころは、分かりません、と答えます。お客さまが聴いてよかったところが聴きどころです」と話す。

多くの国際音楽祭で特集

近藤は1947年、東京生まれ。東京芸術大卒。86年、ブリティッシュ・カウンシル・シニア・フェローとしてロンドンに滞在。87年、米ハート音楽大コンポーザー・イン・レジデンス、米イーストマン音楽院において特別客員教授。国内では、エリザベト音楽大教授、お茶の水女子大大学院教授、東京藝大でも長年教鞭(きょうべん)をとり、現在は昭和音楽大教授、お茶の水女子大名誉教授。パリの秋音楽祭、米国のタングルウッド音楽祭など多くの国際音楽祭において特集が組まれている。2012年にアメリカ芸術・文学アカデミー外国人名誉会員(終身)に選出された。24年、サントリー音楽賞、文化功労者。

「羽衣」は先ごろ亡くなったアメリカの演出家、ロバート・ウィルソンの演出で初演。台本は近藤が書いた。フランスとタングルウッド音楽祭で再演されている。今回は演奏会形式で上演される。

「1992年に音楽祭から電話がかかってきました。ウィルソンの演出、テキストの『羽衣』は決まっていました。50分の作品で、ウィルソンはこのシーンは何分何秒と決めていました。私は正確に時間に収まるように書いたのです。『羽衣』は非常に単純で、それほどドラマチックではありません。叙情的な情景のオペラです。情景と空間を感じてくれればよいのです」と話す。

根源的に、ゼロから考え直す

世阿弥作とされる「羽衣」は、三保の松原の漁師、白龍が松にかかった美しい衣を見つける。天女が返してほしいと懇願すると、白龍は天女の舞を見せてくれるならと承諾する。美しい舞を舞った天女は天上界に上っていく。

近藤作品では天女はダンサーが演じ、踊るだけ。舞台上で唯一の歌手である白龍(メゾソプラノ)は漁師役も天女役も日本語で歌い、さらに語り手がいる。

「3人のオペラにするというのはウィルソンのアイデアです。生活するために映画や演劇の劇伴を書いていました。音楽の長さが決まっているのです。現場で勉強させてもらいました。『羽衣』は劇伴の書き方と同じです。1カ月で作曲しました。音楽があまり言い過ぎると邪魔になります。作曲家はエンジニアだと思っています。ダム工事は予算など与えられた条件の中で建設しなければなりません。作曲も同じです」

近藤の作品目録は膨大だ。オペラこそ1曲だが、オーケストラは1971年の「ノン・プロジェクション」に始まり2022年の「ブレイス・オブ・シェイクス」まで13曲。アンサンブル作品は奏者が11人以上、8人から10人、4人から7人と分けられ、それぞれ11曲、11曲、39曲、さらにデュオやトリオ、ソロ作品、合唱、電子音楽まで180曲近くにのぼる。

「私の作曲法は基本的に即興です。ゆっくり考えることが大事なのです。私は1960年代末から70年代始めのモダニズムが強い時代にそのスタイルをまねしながら勉強しました。その時代はあらゆる実験がされています。当時はレヴィ=ストロースらの構造主義がはやっていました。私は根源的に考え、ゼロから考え直してみようと思いました。だんだん自分が面白いと思うことが分かってきました。作曲は自分で勉強するしかないのです」

初演時と全く違うものに

曲に手を加えていないが、今回の上演は初演の演出とは全く違うものになる。「バロック時代のオペラにあるような、天上の神々と地上の存在が交差する理想郷アルカディアを舞台として展開する人間のドラマに似ていなくもない。そこで展開する人間的な一連のドラマを、それを包摂する全体的な『風景(自然)』の一部として捉える」と作品を説明する。

「自分の昔の曲に手を加えたことはありません。今直すと曲の魅力がなくなります。今でも楽しめる曲だと思います」

公演は8月28日午後7時半から、サントリーホール。「接骨木(にわとこ)の3つの歌」も演奏される。出演はピエール゠アンドレ・ヴァラド(指揮)、加納悦子(メゾソプラノ)、厚木三杏(舞踊)、塩田朋子(ナレーター)、多久潤一朗(フルート)、読売日本交響楽団、他。また午後5時からは近藤のドキュメンタリー映画「ア・シェイプ・オブ・タイム」が上映される。問い合わせはサントリーホール。(江原和雄)

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