ドラマ経験の浅いラウールを抜擢
真面目すぎる高校教師と、夜の世界で“No.1”を目指すホストが織りなす禁断の“愛”を描く問題作『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)が、回を追うごとに大きな波紋を呼んでいる。
「今作は11年前の夏に同じ枠で放送された話題作『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』のスタッフが再結集。期待する声がある一方、悪質なホストクラブが社会問題化する中、高校教師とホストのラブストーリーを描くことに放送前から批判する声が寄せられていました。しかもヒロイン木村文乃(37)の相手役に、ドラマ経験の浅い『Snow Man』のラウール(22)を抜擢したことについても疑問視する声が上がっていました」 (ワイドショー関係者)
スタート前から逆風にさらされた『愛の、がっこう。』。ところが逆境をはねのけ、今クール注目のドラマとして“急浮上”。その要因は、一体なんだったのか。
「完全オリジナルストーリーの脚本を手掛けるのは、『白い巨塔』(フジテレビ系)や『緊急取調室』(テレビ朝日系)など、数々の話題作を手掛けてきた井上由美子。演出は『白い巨塔』『任侠ヘルパー』『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』でチーフ演出を務めたフジテレビの名匠・西谷弘。この2人がタッグを組むラブストーリーだけに見どころたっぷり。そして何より、ホストのカヲルを演じるラウールの繊細で切なすぎる演技には、二度観するファンが続出しています」(制作会社プロデューサー)
ドラマファンを釘付けにした“ラウールの名場面”を振り返ってみよう。
第4話のラストシーン。ホストクラブで愛実(木村)に大金を使わせたことを後悔するカヲルは、翌日ホストクラブの寮の屋上に呼び出すとおカネを返して、
「先生といるの、なんかしんどくなってきた。俺なんかに親切にしなくてもいいよ。これ以上ムリってことで。バイバイ」
と告げて、その場を立ち去ろうとする。愛実から視線を逸らす、その刹那に見せた“悲しくも切ない”表情のえも言われぬ美しさには、ファンならずとも心を持っていかれた。
そして第5話ラスト、愛実が教える学校の門を挟んで告白する場面が訪れる。
「先生と俺の間にはたっけえ壁があんのよ。でもそれ人にはっきり言われると、“違う”って言いたくなった」
「もう先生と生徒ごっこなんていいよ。俺……」
「だめ。校則違反でしょ」
その先を言わせないように口を挟む愛実の手を掴み、
「先生のことが……嫌い。大っ嫌い」
と逆説的に思いを伝える。このシーンで浮かべる、まるでプルプル震える仔犬のような表情に、ネット民も興奮のるつぼと化した。
さらに最新話の第6話では、“遠足”という名のラストデートが初夏の三浦海岸を舞台に描かれる。キスを重ねる海岸のシーンもさることながら、ラウールの見せ場は二人が別れる駅での場面。今にも追いかけてしまいそうな思いを断ち切り、愛実の後ろ姿を見つめるカヲルの愛おしさ溢れる表情には、もはや“恋愛の神様”が宿っているとしか思えない。
演技経験の浅いラウール。一体どこで、繊細で切ないこの演技を手に入れたのか。
小学校6年生の時にジャニーズに入所したラウール。中学3年生でSnow Manに加入してセンターに抜擢されると”20年、16歳でCDデビューを飾った。彗星のごとく現れ、スターへの道をイッキに駆け上がったかに見える。だがその道行きは、決して平坦なものではなかった。
役作りに悩んでいた木村文乃に監督が授けたヒント
「ラウールは、レディ・ガガのバックダンサーに日本人でただ1人選ばれたRIEHATAの元で、ギッズダンサーとして活躍。『RIE HATA TOKYO』のメンバーに選ばれ、ダンスの世界大会『Body Rock Junior』に出場。2年連続で準優勝を獲得するダンススキルの持ち主です。だからジャニーズのオーディションを受けた際、踊りたいダンスとギャップがあり過ぎ、合格しても号泣したとインタビューで答えています」(前出・ワイドショー関係者)
それでもジャニーズJr.としてデビューする道を選ぶラウール。だが世代の違うSnow Manでいきなりセンターに抜擢され、メンバーは
「新加入した自分を嫌っているに違いない」
と疑心暗鬼に陥った。こうした心の葛藤こそ、俳優ラウールにとっての媚薬となった。
ホストの“カヲル”が、素の“鷹森大雅”に戻る瞬間に魅せる、繊細で切ない演技。このお芝居こそ、幼い頃から葛藤を繰り返してきた“苦悩”の賜物なのかもしれない。
だが今作は、“禁断の恋”が明らかになっていく、これからが正念場。経済や学歴、あらゆる格差が広がり、もはや分断とも言えるような社会の中で、さらなる試練が待ち構えている。
「西谷監督が役作りに悩んでいた木村文乃に授けたヒントがあります。それがサイモン&ガーファンクルの『スカボロー・フェア』が流れているようなイメージ。イングランドの伝統的な民謡をサイモン&ガーファンクルがカバーしたのは、ベトナム戦争の真っ只中。結ばれることのない恋人たちを歌ったこの曲が根底に流れているのなら、カヲルと愛実の恋も悲恋に終わると考えたほうが自然ではないでしょうか」(前出・プロデューサー)
1967年に公開された大ヒット映画『卒業』の挿入歌としても知られる『スカボロー・フェア』。映画『卒業』のラストシーンでは、ベン(ダスティン・ホフマン)とエレーン(キャサリン・ロス)が、手に手を取って教会を飛び出す。そんな逆転劇が待っているのか。記憶に残るラストシーンに期待したい――。
文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)
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