「どっちが本物なのか分からなかった」
東京・豊島区のマンションで7月3日、女性の遺体が発見されてから10日以上が経過した。このマンションが女優・遠野なぎこ(45)の自宅と報じられているが、遺体の身元は依然として特定されておらず、遠野本人とも連絡が取れていない状況が続いている。
そんな彼女の動向を心配している人物がいる。遠野のマネージャーを務めたA氏だ。
「彼女はマンションで猫と過ごしたり、行きつけの居酒屋に行ったり、彼女にとって落ち着ける場所はありましたから。まだどこかでのんびり暮らしていると思いたいですが……」
そんなA氏が当時の記憶をたどりながら、彼女の実情を語ってくれた。その中で窺い知ることができたのは、心の傷を負っても、仕事にひたむきだった一人の女性としての「遠野なぎこ」の姿だった。
「波があるんですよ。いい時とね。だからどっちが本物なのかが分かんないんです」
A氏が知る彼女は、極端な二面性を持っていたという。ひとたび仕事の現場に入れば、誰からも好かれる存在だった。
「もうスタッフさんにはすごくいい子なので。だから『アウト×デラックス』(フジテレビ系)で共演したマツコ・デラックスさん(52)ともすごく仲良くなって」
現場でトラブルを起こすことはなく、共演者やスタッフとの関係は常に良好だったという。しかし、その一方で、彼女にはマネージャーを含め、心を許す人はほとんどいなかったそうだ。
「普通タレントだったら、マネージャーには心を開いてくれて……というのがあるじゃないですか。私たちはタレントさんを守ってあげなくちゃいけないので、本音の話をしてほしいところはありました。でも、彼女は心のうちを明かすようなタイプではなかったですね」
猫と自宅マンションで過ごすことが彼女にとって安らぎだったようで、特にここ数年、新たに迎えた「愁(しゅう)くん」の存在は大きく、彼女のブログにはその溺愛ぶりが頻繁に綴られていた。また、酒はかなり飲んでいたという。
「自宅マンション近くに行きつけの焼き鳥屋さんがあってよく行っていたようです。ただ、その店がどこなのか絶対に教えてくれませんでした」
猫たちと暮らす自宅マンション以外にも安らげる場所はあったようだが、酔っているときは仕事上の不満など、本音を漏らすこともあったという。
「母親じゃなくて、女の人に育てられた」
遠野の複雑な内面を理解する鍵は、壮絶な生い立ちにある。彼女は自身の境遇を、象徴的な言葉でA氏に語っていた。
「『母親じゃなくて、女の人に育てられた』っていう言い方をいつも、私にしていたんです。彼女の母親は子どもよりも男を優先するというタイプだったようです」
実母からは長年にわたり心理的な虐待を受け、「お前はブサイクで何もないんだから」と繰り返し言われ、愛情を注がれることはなかったそうだ。遠野さんが芸能界入りしたきっかけも、弟が通う児童劇団の付き添いで偶然スカウトされたという皮肉なものだった。
母に認められたい一心で子役として懸命に働いたが、1999年4月期放送のNHK連続テレビ小説『すずらん』のヒロインに抜擢された際も、母からは何の感動も示されなかったという。
遠野自身も「恋多き女」として知られていた。’09年に一般男性と結婚したが72日間で離婚。’14年に元プロボクサーの男性と再婚するも55日で離婚。’23年には年上の一般男性と3度目の結婚をしたが2週間で離婚した。また、「七股女優」などと揶揄されることもあったが、A氏は、
「私がマネージャーをやっている期間、彼女が男性と付き合っていたということはないです。家族から愛をもらったことのない人だったので、たぶん、どう恋愛をするのか分かんないんじゃなかったのかな、と思います」
と振り返る。遠野が「マッチングアプリで付き合った男性が何人かいる」とテレビで語ったこともあったが、
「おそらくネタとしてそんなことを言っていたんだと思います。『いつも話題になっていたい』と思っている人でしたから」
と推測する。
「いじられキャラをやりたい」
そんな彼女にとって、演劇は全精力を注ぐ場だったという。『すずらん』では、大正末期の北海道を舞台に、親に捨てられたヒロイン・常盤萌を演じ、その迫真の演技で一躍全国に名を知らしめた。
「ドラマや劇への精力の注ぎ方は尋常ではありませんでした。仕事っていうよりも、ドラマの登場人物の人生を自ら楽しみたいというか。自分の生い立ちが余りにも不幸だから、演技でその役に没頭していると現実逃避ができたからなんじゃないかと思うんです」
役者は彼女の天職だったのだろう。とはいえ、遠野はどんな仕事にも真剣だった。子役からキャリアを積み、NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』や人気ドラマ『未成年』などで確かな演技力を発揮。
’11年ころからはバラエティ番組にも挑戦し、『アウト×デラックス』や『バラいろダンディ』(TOKYO MX)での歯に衣着せぬトークで注目を集めた。また、バラエティの延長として“いじられキャラ”への挑戦をA氏に希望してきたという。そんな遠野に「考えているほど甘いものじゃない」とアドバイスしたという。
「彼女に『バラエティだからって、ふざけてやったら面白くないんですよ。真剣にやって、あなたがミスするのを見て、視聴者ははじめて笑うんですよ』と言ったところ、『だったらなおさらやりたい』と言うので“いじられキャラ”の番組を受けていくことにしたんです。NHKの『ゆるスポ部』とか、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)の『女性芸能人スポーツテスト』とか出ましたね。かわいそうなくらい一生懸命やってました」
遠野は近年、摂食障害やうつ病を公表し、’25年6月には訪問看護の利用を始めていた。深い心の傷、他者との間に築かれた壁がありつつも、仕事への揺るぎない献身がブレることは決してなかった。芸能人としての彼女は、やはり超一流というべきだろう。






取材・文:酒井晋介
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