【映画コラム・CINEMA INFINITY】遠い山なみの光(9月5日公開)
ノーベル賞作家カズオ・イシグロ氏の長編デビュー作の映画化。監督は「蜜蜂と遠雷」「ある男」などの石川慶氏と、なかなか骨太な作品である。
1950年代の長崎と1980年代の英国が舞台。日本人の母親悦子と英国人の父親の間に生まれたニキは、長崎で戦争を経験し、渡英してきた母親の半生を文章に留めておきたいと考える。それに応え、母親の悦子は重い口を開き、30年前のことを語り出す。
悦子の話には、自分の家族のことだけでなく、長崎で出会った生活苦の佐知子と、その娘とのひと夏の思い出が出てくる。何度も悦子の話を聞いているうちに、ニキは語られる話に違和感を覚えるようになり…。
恥ずかしながら、原作を読んでいないで観たので、最初は主演の広瀬すず、二階堂ふみの昭和レトロな美しさだけに目を取られていた。でも、なんだか謎めいた雰囲気が作品全体を覆っているなあと感じていたが、そのうちに次から次へと謎が出てきて、あれ、この映画、ミステリーなの?と気づいた。しかしながら、最後に謎がすべて氷解する純然たるミステリーではありません。言うなら、作り方がミステリー。そして、家族の物語であります。
イシグロ氏はインタビューで、小津作品を繰り返し見ていたと語っている。そう言えば、広瀬すずの髪型や団扇を扇ぐ仕草や、「東京物語」のような義父と嫁との外出など、小津作品を思い起こすのは考えすぎか。夕焼けのシーンも郷愁を誘って美しかったなあ。
試写会の後、頭をかしげる人が何人かいらっしゃった。確かに見終わった直後は、私も頭の中を疑問符が飛び交っていたが、時間が経つにつれ納、しっくりして来た。こういう作り、好きです。他に、吉田羊、松下洸平、三浦友和らが出演。 TOHOシネマズ梅田などで9月5日公開(樋口 徹)
広瀬すず、二階堂ふみが美しすぎる「遠い山なみの光」
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