<文化の森 Bunka no mori>
作家、柴崎友香さんの新刊『帰れない探偵』(講談社)は自身初の探偵小説。といっても、名探偵が次々と難事件を解決するわけではない。<今から十年くらいあとの話>という一文から毎回始まる七つの短編は、帰る場所を失い、街をさまよう探偵の未来の話であり、不穏な現実世界の今が映し出される。
本書のきっかけとなった冒頭の一編は、翻訳家・柴田元幸さんが責任編集の文芸誌『MONKEY』(2020年2月刊行)で発表されたもの。探偵小説の依頼を受けた当初、柴崎さんは「なんで私に?」と思ったという。だが柴田さんの話を聞き、ふに落ちた。「私の小説は、古い写真や地図から過去の出来事や人の記憶を探っていくものが多い。それも一種の探偵ものじゃないかと言われ、確かにそうだなと思いました」
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