「3カ月前だったと思います。うちの編成幹部が『WBCが大変なことになっている』と青い顔をしていたのは……」
こう言うのは、民放のテレビ局関係者だ。昨26日に明らかになった、来年3月に開催される野球の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の中継問題。米動画配信大手の「ネットフリックス」が日本国内におけるWBC全47試合の独占放送権を獲得したと発表したことに、
「まさか、本当に日本のテレビ局がWBCの中継から排除されることになるとは……。前回2023年大会はamazonの『プライムビデオ』でもネット配信されたとはいえ、今回の『ネトフリ』は独占放送権。『ネトフリ』がせっかく獲得した権利を日本のテレビに切り売りするわけもなく、テレビでの地上波中継は絶望的です」
と言うのである。
今回の決定は、米大リーグ機構(MLB)とMLB選手会が立ち上げた大会の主催団体であるWBCIが秘密裏に交渉を進め、東京ラウンドの主催者でもある読売新聞社も蚊帳の外に置かれた。
読売新聞社はこの日、
「前回2023年のWBC1次ラウンド東京プールの試合中継は、WBCIが当社を通じ、国内の複数の民間放送局及び海外の配信事業者に放送・配信権を付与し、地上波の番組での生中継が実現されました。しかし、本大会では、WBCIが当社を通さずに直接Netflixに対し、東京プールを含む全試合について、日本国内での放送・配信権を付与しました」
などとする声明を発表し、不満をにじませたものの、後の祭り。日本のテレビ局は交渉のテーブルにすら着くことなく、排除されたのだ。
侍ジャパンが優勝した前回23年大会は、大谷翔平(現ドジャース)が投打の二刀流で活躍したこともあり、社会現象になった。TBSが3試合、テレビ朝日が4試合で地上波中継した日本の全7試合の視聴率はすべて40%超え(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。リリーフ登板した大谷が最後の打者となったエンゼルス時代の盟友・トラウトを空振り三振に斬って取った米国との決勝戦は、平日の午前帯にもかかわらず、野球中継の歴代10位となる視聴率42.4%をマークしたほど。それだけに、テレビ局関係者の落胆も大きいのだが、一方ではこんな見方もある。
《今回は見ない》《大谷も無理して出る必要はない》
「オリンピックしかり、サッカーW杯しかり、近年のスポーツの国際大会の放映権料は高騰の一途をたどっています。WBCも例外ではなく、17年の第4回大会で10億円だった放映権料は、前回23年大会では3倍の約30億円に跳ね上がったとされています。今回は23年大会のさらに数倍、100億円前後になったとみられている。企業としての体力を失った日本のテレビ局に負担できる限度をとうに超え、赤字覚悟で中継する余裕はありません。
いくら高視聴率が約束されているからといって、スポットCMのスポンサー料ではとてもじゃないが、ペイできない。株主の理解も得られません。一方、WBCを通じて野球、メジャーリーグのマーケットを世界に拡大したいMLBにすれば、資金力がなくドメスティックな媒体である日本のテレビ局を相手にせず、より大きなマーケットと巨大マネーを持つ動画配信事業者をビジネスパートナーとするのは、ある意味では当然です」(米メディア関係者)
サッカーの22年カタールW杯では、放送権を取得したインターネットテレビの「ABEMA」が無料中継に踏み切ったものの、いずれにしろテレビの地上波中継がなければ、視聴者は限られることになる。競技の裾野を広げるという大義名分のもと、主催者側の不平等をのみ込んでWBCのビッグイベント化に寄与してきたはずの日本球界にとっても由々しき事態。ネット上には、《今回は見ない》《大谷も無理して出る必要ない》と悲観的な声があふれている。
◇ ◇ ◇
ところで大谷はWBCへの出場にどのような姿勢を見せているのか。出る気があるのか、それともないのか。つい先月、メディアに語った心境とは。
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