まず「顔が似ている」
『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと、その妻の小松暢さんの生涯をモデルにした2025年前期の連続TV小説『あんぱん』第88話では、ついに「柳井嵩（演：北村匠海）」が長年想いを寄せてきた「若松のぶ（演：今田美桜）」に結婚を申し込み、彼女もそれを承諾しました。その際、嵩は暢の前の夫でいまは亡き「若松次郎（演：中島歩）」について、「僕は次郎さんを愛して、結婚したのぶちゃんを好きになった。前よりもっと」「気がねしないで、次郎さんの写真を堂々と飾ってほしい」と語っています。
今後ものぶにとって、優しい次郎は大切な人として心のなかで生き続けていくのでしょう。その次郎に関して、彼のモデルとなった『アンパンマン』のキャラクターが「しょくぱんまん」なのではないか、という説がうわさされています。
まず、史実の次郎のモデルは、暢さんの前夫で日本郵船に務めていた小松総一郎さんです。戦時中に病気になった総一郎さんは、1946年1月に他界しています。残される暢さんを案じて、中根式速記を教えていたのもドラマと同じです。
一方、『あんぱん』では脚本家の中園ミホさんが、各登場人物に『アンパンマン』のキャラクターをモデルとしてイメージしていることも語っています。ガイドブックなどではっきり明言されている例をあげると、パン職人「屋村草吉（演：阿部サダヲ）」は「ジャムおじさん」、のぶの母「朝田羽多子（演：江口のりこ）」は「バタコさん」、朝田家の次女「蘭子（演：河合優実）」は「ロールパンナ」、三女「メイコ（演：原菜乃華）」は「メロンパンナ」がモデルです。
そして、主人公のぶのモデルは、「ドキンちゃん」であることが明かされています。ドキンちゃんに関しては、やなせさん本人が自著『アンパンマン伝説』で「ドキンちゃんは何故か僕の母親の面影があり、性格は妻に似ている」と語っており、やなせさんにとって大事なふたりの女性が投影されていると言われてきました。中園さんはインタビューで、オーディションに来た際の今田美桜さんの顔立ちがドキンちゃんそっくりで、ピッタリだと感じたことも語っています。
そのドキンちゃんは、有名な設定として、「しょくぱんまんの ことが だいすき」（アニメ『それいけ！アンパンマン』公式サイトより引用）です。
彼女がしょくぱんまんを好きになったのには、明確なきっかけのエピソードがあります。アニメ『それいけ！アンパンマン』1989年1月23日放送の第16話後半の回「アンパンマンとぱんどろぼう」では、ドキンちゃんは「ばいきんまん」と協力して、しょくぱんまんが運ぶ給食のパンを盗もうとしました。道ばたで捻挫の振りをしてだまそうとしたドキンちゃんでしたが、しょくぱんまんに優しくされて、彼のことを好きになってしまったのです。ちなみに、この回の脚本を担当したのは中島次郎さんという方で、偶然にも次郎と演じる中島歩さんの名前が混ざっています。
そして、しょくぱんまんの顔立ちが中島さんと似ている、次郎の性格が理想的な紳士であるといったこともあり、次郎の登場以降ネット上では「褒められたからもじもじするのぶがドキンちゃんで、次郎さんはしょくぱんまん様なんだな」「次郎さんってしょくぱんまんみあるよね……似てるというか」「のぶちゃんは、次郎さんの『ああしてほしい』『こうしてほしい』を、ほぼ聞かないな…まさにドキンちゃん」「穏やかで紳士的な次郎さん。病院で白を着てると佇まいがますますしょくぱんまん様」「ドキンちゃんとしょくぱんまんの結婚生活って、『アンパンマン』本編でドキンちゃんが夢見てるけど絶対に叶わないものだよなあ……切ない」などと言われ、「次郎＝しょくぱんまん」説がほぼ確立されています。
はっきりモデルとは確定していませんが、死後も物語に影響を与えている点を考えても、次郎はしょくぱんまん級のメインキャラといえるでしょう。一方の嵩には、ドキンちゃんと仲間の関係で彼女に振り回されることも多い「ばいきんまん」が投影されているという説もありますが、今後夫婦関係がどう描かれるのかも注目です。
参考書籍：『アンパンマン伝説』（著：やなせたかし／フレーベル館）、ムック『やなせたかし はじまりの物語: 最愛の妻 暢さんとの歩み』（高知新聞社編集）、『NHK2025年前期 連続テレビ小説 あんぱん おたのしみブック』（東京ニュース通信社）
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