『あんぱん』のぶたちが引っ越す中目黒のアパートはやなせ夫妻の「胸キュン」エピソード多数? 劣悪だけど「一番楽しかった」

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寒くても幸せだった

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんとその妻の小松暢さんの物語をモデルにした2025年前期の連続TV小説『あんぱん』89話では、結婚が決まった「柳井嵩(演:北村匠海)」と「のぶ(演:今田美桜)」が、中目黒の長屋に引っ越すことが予告されています。

 史実では、東京に来たばかりの頃のやなせさんは、先に上京していた暢さんがお世話になっていた東急東横線の大倉山にある友達の家に住み、一家の子供部屋を間借りしていました。1947年10月に三越の宣伝部に就職したやなせさんは、社会党代議士の秘書だった暢さんと一緒に頑張り、戦後の家賃のインフレと戦いながら、中目黒のアパート(やなせさんの著書『人生なんて夢だけど』によると「S荘」)に引っ越します。

 中目黒と聞くと都内でも理想的な場所に思えますが、このアパートは東京大空襲をなんとかしのいだ焼け残りの物件で、上等な建物ではなかったようです。前述の『人生なんて夢だけど』によると、こちらはやなせ夫妻が一度見に行って「ひどすぎる」と敬遠した物件だったそうで、風呂なしで共同のトイレには穴が開いており、階段もいくつか欠落していました。

 やなせさんの談で「用心していないと転落するというスリルとサスペンスがあり、もちろん手すりにつかまれば絶対に危険!」というほど、危ない階段だったそうです。また、トイレに関しては雨や雪の日は傘をさして用を足していました。

 とはいえ、都心のため袋小路に銭湯、肉屋、八百屋、郵便局も全部そろっており、やなせさんたちは銭湯の帰りに果物を買って食べながら帰るなど、楽しい日々を送ったといいます。やっと実現した暢さんとのふたりきりの生活で、さらに戦後まもなく周りもみんな貧しいため、環境もあまり苦にならなかったそうです。

 若いふたりは、寒い夜に抱き合ってお互いを温め合ったこともあったそうで、やなせさんは「あの頃が一番楽しかったのかもしれません」と述懐していました。

 その後、1953年まで務めた三越社員時代に、やなせ夫妻は四谷の荒木町に家を建てています。『あんぱん』ではいつまで中目黒のアパートの暮らしが続くのか不明ですが、「胸キュン」な描写が多いのはこのときかもしれません。
 
参考書籍:『人生なんて夢だけど』(著:やなせたかし/フレーベル館)、ムック『やなせたかし はじまりの物語: 最愛の妻 暢さんとの歩み』(高知新聞社編集)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)

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