『サマーウォーズ』で同情、モヤモヤを集める侘助 彼の問題点と「受けた罰」とは

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子供じみた承認欲求が悲しくも愛おしい

 2025年8月1日の「金曜ロードショー」で、細田守監督の『サマーウォーズ』(2009年)が放送されます。本作で話題にあがりやすいのは、「陣内家」の入り婿だった「陣内徳衛」の隠し子「陣内侘助」というキャラクターで、彼に関して「親戚の侘助への扱いがイヤだ」という意見が一定数見られるのです。

 一方で、「侘助が作中でしでかしたことが、チャラになってるように見える」ことにモヤモヤを覚えるという意見もあり、それらに納得できる部分もあります。しかし、筆者個人としては「侘助はやったことに対する重い罰を受けている」といえるとも思うのです。その理由を記していきましょう。

※以下は、『サマーウォーズ』の結末を含む本編のネタバレに触れています。

●「41歳児」と言われるほどの幼い態度

 陣内家のなかで疎まれていた侘助は、世界規模の大パニックを引き起こすことになったハッキングAI「ラブマシーン」を作った張本人です。

 しかし、事態収束後のニュースでも言われている通り、彼はラブマシーンの開発者に過ぎず、責任は実証実験として仮想空間「OZ(オズ)」に解き放ったアメリカ国防総省にあると結論づけられます。確かに、それは「包丁を作った人がその包丁で起こした殺人事件の責任を取れるか」と言う論旨の話でしょうし、その1点に限れば侘助は悪くないといえます。

 しかしながら、その侘助本人が「まったく悪びれない」こと、視聴者から「41歳児」と揶揄(やゆ)されるほどの、幼いとさえいえる精神構造と態度こそが、彼の大きな問題です。

 実際に劇中でも、侘助がラブマシーンの暴走について「人工知能にああしろこうしろ言ったわけじゃない」というと、「子供みてぇに言い逃れすんのかよ!知らぬ存ぜぬじゃ通らねえぞ!」と、邦彦から大きな反感を買っています。

●子供じみた承認欲求の悲しさ

 さらに、侘助が親戚から爪弾きにされた最大の(ほぼ唯一ともいえる)理由である「栄おばあちゃん」のなけなしの山を勝手に売って、そのお金でアメリカに行ったことに加えて、やっと帰ってきた侘助はおばあちゃんに「じじいが生きていた以上の金が入ってくる」「いままで迷惑をかけたことを挽回したい」とまで言うのです。

 客観的には侘助は、おばあちゃんを裏切ったあげくに、今度はお金という評価軸で一方的に認めてもらおうとしている勝手な人物であり、親戚に嫌われてしまうのも当然だと思えます。

 しかし、視聴者が侘助を憎みきれず、彼を責める親戚のほうがイヤだとも思ってしまうのは、「おばあちゃんに恩返しをして認められたい」という子供じみながらも、共感しやすい思いを持っているからでしょう。

 しかも、侘助はおばあちゃんの誕生日にたまたま帰ってきたように見せかけて、パスワードをおばあちゃんの誕生日にしているなど、不器用な愛情が見えます。それを意に介しない親戚から軽蔑される一方で、その侘助の心情を汲み取れることができる「夏希」から慕われていたことも、分かる気がするのです。

●おばあちゃんは侘助を本当に殺そうとしていたのか

 そんな侘助に対して、おばあちゃんは薙刀を取り出し「いまここで死ね!」と詰め寄りました。ただ、侘助がその刃先を握りしめても血が出ていないため、その刃には「焼き」が入っておらず、おばあちゃんは本当に殺す気はなかったと思えます。

 とはいえ、劇中でたくさんの人へ電話をして叱咤激励を飛ばし、「縁」や「恩義」を重んじるおばあちゃんとしては、世間に迷惑をかけた根本の原因を作っても悪びれず、かつ自身への不義理に対して安易な挽回をしようとする侘助の態度は、「死に値する」ほどに許せないものだったに違いありません。

●おばあちゃんの死因は侘助のせいかもしれないが、そうではないかもしれない

 その次の日、おばあちゃんは狭心症のため亡くなります。本来であれば「異常があればすぐにアラームが鳴る」システムで見守られているはずでしたが、ラブマシーンが起こした混乱のせいで、前日の夜からデータが入っていないことも告げられていました。

 ここで「いつも通りなら助かったのかよ」「いや、寿命だろうな」という会話があるように、おばあちゃんの死は、ラブマシーンの(ひいては侘助の)せいか、そうではないのか、「どちらとも取れる」ように描かれています。

 ニュースではラブマシーンによる世界規模の大パニックが起きても、死者はひとりもいなかったと報道されていましたが、実際は唯一、おばあちゃんだけが亡くなってしまったという解釈もできます。また、前日に侘助に薙刀で詰め寄るほどの怒りを覚えたことも、狭心症の発作を起こした理由かもしれません。

 こう考えると、侘助には法律による罰は与えられてはいないものの、やはり勝手な言動の罪を背負い、その罰を受けているといえます。

 彼は誰よりもおばあちゃんに認められたいと願っていたものの、結局はその本人から「死ね」と言われてしまいました。しかも、世界中を大混乱に陥れてしまう原因を生み出し、そのために認めて欲しかったおばあちゃんが亡くなり、もう二度とその願いが叶えられることはなくなった……そう考えれば、とても重い罰でしょう。

●おばあちゃんは侘助の幸せを願っていた

 しかし、だからこそ、クライマックスの侘助も加わっての「弔い合戦」、おばあちゃんが生前に言った「身内がしでかした間違いは、みんなでカタをつける」という意志を持って、親戚一同が戦う展開は感動的です。

 さらに、おばあちゃんは遺言で「あの子は何も言わなかったけど、手だけは離さなかった。あの子をうちの子にできる。私のうれしい気持ちが伝わったんだろうよ」と、侘助の「善性」を信じていたことが分かる言葉を遺していました。「なった野菜、ぶどう、なしを思いっきり食べさせてやってください」という言葉も、侘助の幸せを願うがゆえのものでしょう。

 侘助はおばあちゃんに対して恩返しはできなかったかもしれませんが、彼女から愛されていました。結果として、「家族同士、手を離さぬように。人生に負けないように」という彼女の遺言も、叶えられています。いかに親戚から嫌われようとも、そのことは侘助にとっての大きな救いになるのかもしれません。

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