土門拳と東松照明、それぞれの視点で描いた被爆地 山形で写真展

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トークイベントで東松照明氏との思い出を語る妻の泰子さん=山形県酒田市の土門拳写真美術館で2025年7月13日、竹内幹撮影
トークイベントで東松照明氏との思い出を語る妻の泰子さん=山形県酒田市の土門拳写真美術館で2025年7月13日、竹内幹撮影

 戦後80年記念特別展「東松照明と土門拳―語りつぐ写真―」が山形県酒田市の土門拳写真美術館で開催されている。日本を代表する写真家、土門拳(酒田市出身、1909~90年)と東松照明(名古屋市出身、30~2012年)による初の二人展では被爆地の広島と長崎をそれぞれの視点で描いた代表作が展示されている。

 土門は1957年に広島、東松が61年に長崎を初めて訪れた。原爆投下から10年以上の歳月が流れ、復興へと歩み出した街並みは変わりつつあったが、後遺症に苦しむ被爆者を目の当たりにし、2人は衝撃を受ける。

 「『ヒロシマ』は生きていた。それをぼくたちは知らなすぎた」と語った土門は原爆病院や戦災児童育成所に何度も足を運んだ。リアリズムを追求して皮膚移植手術の様子を克明に描写するなど、被爆者の姿を追い続け、写真を通して社会に問題提起した。58年に刊行した写真集「ヒロシマ」は国内外で大きな反響を呼んだ。

 東松は学生時代、憧れの存在だった土門が審査員を務めるカメラ雑誌のコンテストで度々入賞していた。土門らとの共作「hiroshima-nagasaki document 1961」の撮影のため、東松は原水爆禁止日本協議会の依頼で初めて長崎を訪れた。「被爆を風化させない」との思いで撮り続けた写真集「<11時02分>NAGASAKI」を66年に刊行した。

土門拳写真美術館で開催されている戦後80年記念特別展「東松照明と土門拳-語りつぐ写真-」=山形県酒田市で2025年7月13日、竹内幹撮影
土門拳写真美術館で開催されている戦後80年記念特別展「東松照明と土門拳-語りつぐ写真-」=山形県酒田市で2025年7月13日、竹内幹撮影

 本展会場を訪れた東松の妻、泰子さん(73)は98年から約10年間、共に長崎市で暮らした。半世紀にわたって被爆者と親密な関係を築きながら撮影していた夫に思いをはせ、「長崎は東松にとって特別な場所。現実を見てもらい、改めて原爆の恐ろしさを知ってほしい」と語る。現在は東松の遺志を受け継いで、沖縄市で写真教室を開き、長崎にも頻繁に訪れ被爆者やその家族と交流を続けている。

 「絶対非演出の絶対スナップ」によるリアリズム写真を提唱した土門。展示作品の一つの「被爆者同士の結婚 小谷(こだに)夫妻」について、同館学芸員の田中耕太郎さんは「ストレートに撮った写真だが、被爆者の人間性や家族が歩んできた時間を切り取り、生命力や人間の業のようなものを感じられる」と語る。

 一方、東松の作品は土門の影響を受けながらも、違ったアプローチをしているという。「熱線とその後の火災で溶解変形した瓶」は「空に浮かんだ、えたいの知れない動物や臓器のようにも見える。原爆の脅威を抽象的に表現することで見る者が多様な解釈ができる」と作風の違いを指摘する。

戦後80年記念特別展「東松照明と土門拳-語りつぐ写真-」が開催されている土門拳写真美術館=山形県酒田市で2025年7月13日、竹内幹撮影
戦後80年記念特別展「東松照明と土門拳-語りつぐ写真-」が開催されている土門拳写真美術館=山形県酒田市で2025年7月13日、竹内幹撮影

 本展は他に土門が長崎を撮影した貴重な一連の写真や日本の美を追求した「古寺巡礼」など計100点、東松は72年の本土復帰前後から撮影を重ねた沖縄の作品など97点を展示。2人の写真家の初期作品から晩年までの足跡をたどることができる。

 また、歴代の土門拳賞(毎日新聞社主催)を受賞した写真家による「土門拳賞ヒストリー―写真家と戦争の軌跡―」と題した作品展も併催。戦争と関わりがある江成常夫や大石芳野、亀山亮ら8人の写真家の作品を展示している。展覧会は10月26日まで。9月25日は休館日となっている。【竹内幹】

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