SNSで話題を呼んでいる飯漫画『週末やらかし飯』は、OL・空子さんが平日のストレスを癒すため、週末に"背徳的"なごはんを思う存分楽しむ物語。チキンラーメンを5袋分一気に作ってみたり、2キロの豚バラブロックを丸ごと角煮にしてみたりと、登場するご飯はどれも「一度はやってみたい」と思わせる魅力にあふれています。
作者の小村あゆみさん自身も、料理と食べることが大好き。本作には、そんな小村さんの楽しい気持ちがたっぷり詰め込まれています。今回は小村さんに、『週末やらかし飯』がどのように生まれ、描かれているのかをうかがいました。
『週末やらかし飯』は描きやすい作品
――小村先生は、恋愛漫画を数多く描かれていますが、『週末やらかし飯』を描く上で違いや難しさを感じることはありましたか?
【小村】恋愛漫画は難しくて正直苦手だったので、恋愛を絡めなくていい『やらかし飯』は描きやすいです。やらかし飯でどうこう、というよりは少年誌に来たばかりの前作のほうが違いに戸惑っていたと思います。
『やらかし飯』で恋愛は「描かない」というわけではなくてキャラクターの動きでそうなることはあるかもしれません。
――恋愛漫画のどんなところに苦手意識をお感じになられていたのでしょうか。
【小村】恋愛特有のドキドキとか駆け引きとか、モヤモヤといった過程を書くのが実は苦手で。すぐ結論を出して欲しくなってしまうんです。
――では、『やらかし飯』はどのような点で描きやすいとお感じになっているのでしょう。
【小村】ほとんどのお話が一話完結ですっきり終わるところですね。
今回の絵や展開の中で、男性向け、女性向けのどちらかに寄せようとする雰囲気はなく、ご飯が美味しそうなら良いという形なので、割と自由に描かせていただいてると思います。
自分が楽しんでいるのが原稿に出るように
――「背徳ごはん」を作り、食べている空子さんに読者としてわくわく感を覚えます。物語を作る上でこだわりポイントはありますか?
【小村】絶対に「自分がやりたいこと、自分がテンション上がること」をしてもらうことです。雑なもの、高級なもの、手間のかかるもの、空子さんは色々食べますが、根底にはそれが絶対にあります。
なので傾向として「女子の憧れ」感はあるかもしれません。「食べ切れない悔しさ」も女子に多めな気持ちかもしれないですし。そして不必要なストレスを極力描写しないようにしています。
――その食べ物のアイデアはすんなり浮かんでくるのでしょうか?
【小村】話はできていないけど、このメニューが書きたいっていうのは、だいぶ溜まってきていますね。
――小村先生ご自身も料理がお好きなんですよね。
【小村】そうですね。なのでやらかし飯の半分くらいは自分が普段やっていることです。自分が楽しんでるのが原稿に出るように意識していますね。多分、自分が楽しめていないと読者にも伝わらないと思うので、そこは大事にしているところです。
――「女子の憧れ」とおっしゃるように、漫画の中では主人公の空子さんがドーナツチェーン店で好きなだけ買ってみたり、様々な味のレトルトカレーを食べ比べしたり、まさに女子のやりたいことが詰まっていますね。
【小村】背徳的なカロリーだけがあればいいわけでもないし、量があればいいってわけでもないんです。夢があるようなことを、空子さんにはやっていてほしいなと思います。
――先ほどおっしゃった"不必要なストレスを極力描写しないように"とは、具体的にどのようなことでしょうか?
【小村】嫌なキャラがいたり、何かと比較して何かを持ち上げる描写だったり、わざわざ嫌なこと言ったりとか、そんなストレスがないように、さらっと読めるようにしています。
描きはじめの頃は、"ストレス発散"という名目があったから嫌なことも起こる想定だったんですけど、描いているうちに「ストレスがなくてもうまいもん食べたいよな」と思うようになって。だから、物語の中ではどんどんストレスはなくなっているんじゃないかなと思います。
家で食べる「背徳ご飯」は、自由も責任も全部自分のもの
――物語の最後のページにある、残さず食べるアレンジレシピも漫画の魅力の一つだと思います。料理を美味しく食べ切るコツは何だと思いますか?
【小村】「食べ切るため」じゃなくて「自分は何が食べたいか」でアレンジすることですね。
義務感では続かないと思います。なので「今は気分じゃないな」っていう時に保存しておける冷凍庫が1番大事だなと思います。
――例えば疲れていたりするとき、自分の食べたいものがパッと浮かばなかったら小村先生はどのように食べるものを決めますか?
【小村】自分が何を食べたいかが思いつくまで自問自答しますね。
あとは、いつでもアレンジしたり、好きなものを食べたいと思ったときに組み合わせて作れるように冷凍庫に食材を保存してあります。
空子さんも無理はしていないんですよね。今日はこれがあるから食べちゃおうとか、昨日作ったお肉があるからこれをレンチンするだけでいいやとか。
それから、食べたくないときは無理しなくていいんじゃないかなと思います。空子さんは食欲がなくなることがないからあれなんですけど...(笑)
――「目の前に食べきれないぐらいご飯がある」幸せはブッフェなど外食でも実現できる一方で、"家で食べる"シーンが多いのはどうしてなのでしょうか?
【小村】ブッフェやお店にいっぱいあってもそれは自分のものではないですし他人の迷惑になる食べ方はさせたくないです。残したらダメ、と思ってセーブすることもストレスだし残すのはもっとストレスですし。家でなら自由も責任も全部自分のものだからです。
それと、空子さんは地方出身、地方在住で、欲しいと思ったものがその場にないこともあります。それで「自分で作れば手に入る」が染み付いているのだと思います。
――地方出身、地方在住というのはキャラクター設定に影響している部分は他にもありますか?
【小村】近所の人から食材を貰うこともあるので、そこに無頓着だったりとかはあるかもしれません。地方出身者だからこそ、都会っぽいものへの憧れとか、チェーン店への憧れとかもあると思います。
あとは私自身が地方で育って今も地方在住なので、都会の設定で描くとおかしくなると思うので。空子さんを都心の方に在住させたりはしなかったですね。
だから、空子さんは家系や二郎系ラーメンに行かないんですよ、私が行ったことが無いから。食べてみたくて作ったらちゃんぽんみたいになるかもしれないですね、九州在住の設定なので。
家族回とダイエット回についたコメントが嬉しかった
――連載を重ねるなかで、読者から印象に残った反響や感想があれば教えてください。
【小村】反響は分かりませんが、家族回にコメントが多くて、わたし自身が家族大好きなので嬉しかったです。
それと「ダイエット回なのに健全な食欲がわいてくる」っていうコメントもとても嬉しかったですね。
――"家族"は物語で頻繁に出てきますね。家族を描くときはどんなことを意識していますか?
【小村】あまり意識していることはないんですけど、強いて言うならストレスはなくすようにしています。仲がいい家族だって完璧なわけじゃないから、嫌なところもあるはずですよね。でも、それをわざわざ描写しないようにしています。
あと、九州の男性ってネットで議論の対象になりがちですよね。そこは読者に変な解釈を与えないように気をつけていたりします。
――ダイエット回へのコメントはどうしてそう思ったのですか?
ご飯を食べる漫画でのダイエット回となると「我慢」とか「摂生」がメインとなってしまうと思うのですが、その回で「ごはんを食べたくなる」と思ってもらえたのは貴重でありがたいことだなと感じたからです。
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