告発者を追い詰めた? NHK社員の“脅し”とも取れる言動
NHKが’23年10 月9日のNHKニュース番組『ニュース7』で報じた故・ジャニー喜多川氏(以下ジャニー氏・享年87)による「NHK局内トイレでの性加害」報道。
これについて、「SMILE-UP.」の前代表である藤島ジュリー景子氏(以下藤島ジュリー氏・59)が7月18日に発売されたノンフィクション作家・早見和真氏の著書『ラストインタビュー』(新潮社)で、疑義を呈している。その内容と、本サイトが入手した裁判資料とを照らし合わせると、藤島ジュリー氏の告発を裏付け、さらには、NHK報道の『大誤報』である可能性を示唆する記述があったのである。
そこには、さらに驚くべき内容が記載されていた。では、裁判資料に書かれていた内容とは──。
問題の裁判は、簡潔に言えば、SMILE-UP.社が「あなた(トイレでの性被害を訴えた男性)に補償金を支払う義務はない」と裁判所に認めてもらうための訴訟である。
男性は弁護士を通じて、約1年以上にわたり、裁判外での交渉(任意協議)を通じてSMILE-UP.社に補償を求め続けていた。しかし、この長期間にわたる協議が膠着状態に陥り、話し合いによる解決が困難と判断したため、SMILE-UP.社は異例の訴訟提起に踏み切った。
この報道をしたNHK自身が告発者に対して”圧力”をかけていた、というのである。SMILE-UP.社側が提出した、告発者の代理人弁護士との協議内容を記録したメールにはこう記されている。
〈A弁護士(編集部注:告発者の元代理人)は、NHKの社員に対して、「SMILE-UP.社から債務不存在確認請求訴訟・名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟を検討していると言われた」旨を伝えた。そうしたところ、当該NHKの社員から、NHK内部で検討した結果として、ある中間管理職の方針として、●●氏(編集部注:告発者名。裁判資料でも黒塗り)が虚偽申告であると認めた場合にはNHKから●●氏に損害賠償請求を検討している(オプションの一つである)旨伝えられた。
A弁護士としても、率直に申し上げて、当該発言には非常に驚いた。A弁護士は、NHK社員に対して、上記中間管理職が誰か質問したが、教えてもらえなかった。〉(SMILE-UP.’25年1月23日付の準備書面より)
つまり、NHKは告発者の弁護士に対し、
「もし告発者が『性被害は嘘でした』と認めるなら、今度はNHKがあなたを訴えることもあり得ますよ」
という趣旨の内容を伝えていたというのだ。
この記述が事実であれば、告発者は被害申告を撤回すれば、NHKから虚偽申告を理由に損害賠償を請求されるリスクに直面し、一方、被害を主張し続ければ、SMILE-UP.社との裁判で敗訴し、さらに追加で損害賠償請求の訴訟を起こされる可能性がでてきたのである。
いずれにせよ、NHKが告発者側に「損害賠償請求を検討している」と伝えたとすれば、報道機関として求められる事実検証の責任を著しく欠くと指摘されても仕方がないのではないか。
違和感だらけの裁判の結末
SMILE-UP.社側が反論を繰り広げたこの裁判は、意外な形で幕を閉じる。被告である告発者側は、SMILE-UP.社の「あなたに賠償金を支払う義務はない」という請求を全面的に受け入れる「請求の認諾」をしたのだ。
「認諾」とは、訴えられた側が「訴えた側の言い分は正しいです」と法廷で認める手続きのことである。これを行うと、裁判官が証拠を調べて判断を下す「判決」は出されない。その代わり、被告が請求を認めたという内容が「認諾調書」という公的な記録に記載され、確定判決と同じ効力を持つ。つまり、SMILE-UP.社の「あなたに賠償金を支払う義務はない」という主張が、法的に100%認められた形だ。
一見、告発者側の「完全敗北」に見えるが、この決着は「玉虫色の解決」と言える側面を持つ。というのは「SMILE-UP.社に賠償義務はない」という“結論”は出たものの、その理由、つまり「性被害が本当にあったのか、なかったのか」という核心部分については、裁判所が判断を下さないままだからだ。
「認諾」という決着により、告発者側は「性被害の事実そのものが否定されたわけではない」と主張する余地を残すことができる。裁判資料で示されているNHKからの提訴の可能性を考えれば、この決着方法は、告発者にとって最善だったとも考えられる。
藤島ジュリー氏の“告発本”をきっかけに、本誌が入手した裁判資料は、ジャニーズ性加害問題を巡るNHKの報道に重大な疑義を投げかけるものだった。ジャニー氏のアリバイが事実であり、NHKがその裏付けを怠ったまま“大誤報”を報じ、さらには告発者に対して訴訟まで示唆していたとすれば、それは公共放送として決して許されることではない。
NHKに対して、件の性被害報道に関して問い合わせると、以下のように回答があった。
「取材の詳しい過程については、お答えしておりませんが、さまざまな取材に基づいて被害があったという証言の信憑性を判断したうえで報道しており、その認識は変わっておりません。なお、NHKが、男性を訴えることを検討したという事実はなく、そのような内容を男性の代理人に伝えた事実もありません」
SMILE-UP.社側の主張を真っ向から否定したNHK。一方、SMILE-UP.社にNHKの報道内容と報道姿勢について聞くと、詳細に回答した。
「事実ではないと考えている」
「〈NHKの報道について〉弊社としては、NHK局内のトイレでの性被害に関する申告内容について確からしさが確認できなかったため、弊社が当該男性に対して責任(損害賠償債務)を負っていないことの確認を求め、債務不存在確認訴訟を提起しました。(中略)お相手の方が弊社の主張を全面的に認めたものと理解しております」
さらに、NHKからの「圧力」については、
「弊社の代理人弁護士が、お相手の男性の代理人弁護士から、『(中略)お相手の男性が事実と異なる申告を行ったと認めた場合には、NHKが当該男性に対して損害賠償請求を行うことも検討していると言われている』との説明を受けました。NHKの職員の方が申告された男性側に対して、上記のような発言をされたのであれば、公共放送機関としての取材の在り方等に問題があるのではないかと考えております」
とした上で、今後のNHKへの対応については、
「弊社としては、NHK局内のトイレでの性被害に関する申告内容について事実ではないと考えておりますので、NHKにおかれては、訂正報道等の然るべき対応を行っていただきたいと考えております」
と、明確に訂正報道を求めた。
藤島ジュリー氏は、本の中で、
〈これから訴状もいくつか表に出ることになると思います。一つひとつの事例について、お話しできる状況が来たら、その都度きちんと世間のみなさまにもご説明させていただきます。もちろん、これからも認めるべき点は認めていきますが、それでもあきらかに誤っていることに対してはしっかりと主張していきたいと思っています〉
と語っている。SMILE-UP.社が指摘する報道の問題点について、今後、真相が解明される日が来るのか注目される。
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