日銀は7月30日、31日に開いた金融政策決定会合で政策金利を現行の0.5%程度に据え置くことを決めた。会合後の記者会見で、植田和男総裁はこの先の利上げに関して慎重な見方を示した。これにより外国為替市場で1ドル=150円台に乗せるまで円安・ドル高が進行した。ただ、利上げ見送りとの判断は、どういった立場から見て合理的と判断できるだろうか?
民間エコノミストの間で、需給ギャップ(産出量ギャップとも呼ばれる)が、足もとにかけてプラスになっているのではないかという指摘が、ここ数年されている。
プラスか、マイナスか――。これは経済政策運営上、例えば金融政策にとって非常に重要な問題だ。プラスのとき、経済は潜在国内総生産(GDP)以上に拡大しており、つまり直感的には景気が過熱気味にあるため、金融政策上は引き締めが求められる。一方、マイナスのとき、経済が潜在GDPに満たず、直感的には景気が低調であるときには、緩和的な金融政策が求められる。
なお需給ギャップは、経済全体の総需要と総供給の乖離(かいり)を意味し、実際のGDPと潜在GDPの差から計算される。潜在GDPは長期的に持続可能な国内生産の水準を意味するが、その水準は観測できないため、何かしらの定式化と推計に頼ることとなる。
日本では内閣府や日銀が需給ギャップを足もとでマイナスと推計する一方、民間エコノミストが別の定式化で計算すると大きくプラスとなっている、と見解が分かれている。
こうした推計上の問題は、実は需給ギャップにとどまらず、経済を語る上では多く存在している。中でも、筆者が気になっているのは、自然利子率の上昇である。
自然利子率の概念
一国経済において、どの金利水準が緩和的か、引き締め的かを知る尺度が自然利子率である。これは景気や物価に対して中立的な実質金利の水準を指す。自然利子率は実質の概念であるため、インフレ分を調整する必要…
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