殺人の瞬間を捉えた映画は本当に存在する?映画で見る“スナッフフィルム”の残酷な世界

Date: Category:エンターテインメント Views:1 Comment:0


イーライ・ロスやロバート・エガースといった監督たちが偏愛する“カルト作品”として、30年ぶりにリバイバル上映が叶った『ミュート・ウィットネス』(公開中)。声を出すことができない女性を襲う恐怖を描いた本作の題材となるのが、殺人を記録する“スナッフフィルム”だ。繰り返し映画で扱われ、怖いもの見たさを刺激してきたその魔力とはいったい?ここでは数々の映画を通して、スナッフフィルムの深淵なる世界を覗き見ていきたい。

【写真を見る】”スナッフフィルム”を題材とした映画を集めてみた!(『ミュート・ウィットネス』)
【写真を見る】”スナッフフィルム”を題材とした映画を集めてみた!(『ミュート・ウィットネス』) / [c]1995 Anthony Waller. All Rights reserved

■そもそも“スナッフフィルム”ってなに?

「火を吹き消す」という本来の意味が転じ、“殺す”の意味でも使われる英単語の“Snuff”。このスラングを用いたスナッフフィルムは、娯楽や金儲け目的で作られた殺人の映像を指し、スナッフムービー、スナッフビデオとも呼ばれる。

『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』の原作者エド・サンダースがスナッフフィルムの存在を広めたと言われる
『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』の原作者エド・サンダースがスナッフフィルムの存在を広めたと言われる / [c] IFC Films / Courtesy Everett Collection

この言葉を初めて使ったとされるのが、『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』(18)で製作総指揮を務めた作家のエド・サンダース。自身が執筆した原作本「ファミリー:シャロン・テート殺人事件」(71)に「マンソンファミリーが犯行を撮影していた」という噂を記載(インタビュー対象の元ファミリーメンバーは、実際に映画を観ておらず、聞いた話を語ったとか)。これを機に、裏社会には殺人ビデオが流通しているとの都市伝説が広まるようになった。

ちなみに、8mmフィルムが家庭に浸透するようになった70年代からその存在がまことしやかに囁かれてきたが、2000年代にはウクライナの若者たちによる連続殺人の様子を収めた映像がインターネット上に流出する、通称「ウクライナ21」事件が発生。これは“有史初のスナッフフィルム”と言われている。

■観る者を惑わせた“偽”スナッフフィルムたち

本物のスナッフフィルムとして宣伝された『スナッフ/SNUFF』のポスター
本物のスナッフフィルムとして宣伝された『スナッフ/SNUFF』のポスター

映画の世界で、このスナッフフィルムのイメージに誘われるように作られたのが、その名もズバリ『スナッフ/SNUFF』(76)。マンソンファミリーを思わせる殺人カルト集団の凶行を描いた内容だが、特筆すべきはそのラスト。映画撮影現場で出演女優が監督に殺される様子が唐突に収められており、南米アルゼンチンから届いた“本物の殺人映像”と喧伝され、大きな話題を集めた。だが実は、もともとお蔵入りになっていた『スローター』という映画をスナッフフィルムとして売りだすために、新たに撮影した映像を最後にくっつけたもの。日本では映倫のR指定外国映画第1号として公開された。

『食人族』のスナッフフィルムが見つかったという触れ込みは当時の観客に衝撃をもたらした
『食人族』のスナッフフィルムが見つかったという触れ込みは当時の観客に衝撃をもたらした / [c] Trans American Films /Courtesy Everett Collection

同じく“焼却処分されるはずだったフィルムが流出してしまった”という設定のスナッフフィルムとして宣伝されたのが、ルッジェロ・デオダート監督による『食人族』(80)。南米アマゾン奥地の秘境へと足を運んだアメリカ人の撮影隊が失踪し、その後、救助隊が白骨遺体と共に撮影済みフィルムを発見するファウンドフッテージものだ。映像には数々の蛮行でヤマモモ族の怒りを買い、殺され、終いには食われていく…むごい映像が収められている。

また、焼身自殺現場、白昼の警官によるライフル魔射殺シーン、電気椅子での処刑シーンといった“死の風景”を集めた『ジャンク 死と惨劇』(78)を発端とし、三枝進が製作に関わったことでも知られる「ジャンク」シリーズ。あまりに残酷な描写ゆえ、チャーリー・シーンが本物と勘違いしてFBIに垂れ込んだという逸話が残る、日野日出志による『ギニーピッグ2 血肉の華』(85)など、日本でもスナッフフィルムの体をなした作品が作られてきた。

■スナッフフィルムの謎めいた世界を描く作品も多数…

ニコケイ演じる探偵がアングラポルノの世界に足を踏み入れる『8mm』
ニコケイ演じる探偵がアングラポルノの世界に足を踏み入れる『8mm』 / [c]Columbia Pictures/courtesy Everett Collection

存在のあやふやさに目をつけ、物語の鍵を握るアイテムやエッセンスとしてスナッフフィルムを描いた作品も数知れず。その代表格といえば、ジョエル・シュマッカー監督の『8mm』(99)。少女を殺害する様子を収めたビデオの真偽を調べてほしいとの依頼を受けた私立探偵の主人公トム(ニコラス・ケイジ)が、ビデオショップ店員のマックス(ホアキン・フェニックス)の協力のもと、残虐ポルノの世界に足を踏み入れていくサスペンスだ。

スナッフビデオの真偽を確かめるうちにある真実へたどり着くことに…(『8mm』)
スナッフビデオの真偽を確かめるうちにある真実へたどり着くことに…(『8mm』) / [c]Columbia Pictures/courtesy Everett Collection

はたして映像は本物なのか?その出どころは?ビデオの裏側にある真実とは?スリリングな物語や裏社会の描写など、蠱惑的な雰囲気にどこか心惹かれてしまう。

『ヴィデオドローム』もスナッフフィルムの世界を蠱惑的に描く
『ヴィデオドローム』もスナッフフィルムの世界を蠱惑的に描く

スナッフフィルムの世界に心奪われていく様子を描いた作品として、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』(83)も忘れてはいけない。ローカルケーブルテレビ局の社長マックス(ジェームズ・ウッズ)が、特に筋書きのない拷問、殺人といったスナッフフィルムの映像を流す海賊番組“ヴィデオドローム”の存在を知り、しだいに取り憑かれていく様を描く。

映像の世界に耽溺する様子をビジュアルで表現している(『ヴィデオドローム』)
映像の世界に耽溺する様子をビジュアルで表現している(『ヴィデオドローム』)

誰が、なんのために、番組を放送しているのか、すべてが謎に包まれたヴィデオドロームのグレーでミステリアスな存在感や、映像によって現実と幻想の間で自分を見失っていく狂乱まで、スナッフフィルムのいかがわしさが鮮やかに表現されている。

個人で撮影できる8mmフィルムの普及もスナッフフィルムの噂を大きくした要因の一つ(『フッテージ』)
個人で撮影できる8mmフィルムの普及もスナッフフィルムの噂を大きくした要因の一つ(『フッテージ』) / [c]Summit Entertainment/courtesy Everett Collection

また、スコット・デリクソン監督の『フッテージ』(12)は、スランプ気味のノンフィクション作家エリソン(イーサン・ホーク)が、一家惨殺事件現場という曰く付きの一軒家に引っ越し、その事件を調べることで再起を図るが、不可解な恐怖に巻き込まれてしまうホラー。

フィルム映像の映し方にも工夫を感じる(『フッテージ』)
フィルム映像の映し方にも工夫を感じる(『フッテージ』) / [c]Summit Entertainment/courtesy Everett Collection

エリソンが屋根裏で見つけたのが、5本の8mmフィルムと映写機。それぞれに絞首刑をはじめ、恐ろしい一家殺害の映像が残され、粒子の荒い映像はどこかリアリティがあり、作り物とわかっていてもゾッとしてしまう。

■切っても切れない?連続殺人鬼とスナッフフィルム

マンソンファミリーの一件からスナッフフィルムの噂が広まったように、連続殺人鬼とスナッフフィルムは結びつけられて考えられることもしばしば。300人以上を殺害したヘンリー・リー・ルーカスもスナッフフィルムへの関与が疑われている。

『ヘンリー』の題材となったヘンリー・リー・ルーカスはスナッフフィルムへの関与を仄めかしたとか
『ヘンリー』の題材となったヘンリー・リー・ルーカスはスナッフフィルムへの関与を仄めかしたとか / [c] Greycat Films/courtesy Everett Collection

マイケル・ルーカー演じるこのシリアルキラーの生活を描いた『ヘンリー』(86)は、ヘンリーの犯行シーンの淡々とした雰囲気がスナッフフィルムを彷彿とさせる。また、ヘンリーが質屋で奪ったビデオカメラで撮影した犯行映像もテレビを通じて映しだされ、その生々しさがなんとも恐ろしい。

■もしもスナッフフィルムの現場に遭遇してしまったら…

大金に釣られて足を運んだ現場がスナッフフィルムだったら…(『セルビアン・フィルム』)
大金に釣られて足を運んだ現場がスナッフフィルムだったら…(『セルビアン・フィルム』) / [c]Invincible Pictures/courtesy Everett Collection

スナッフフィルムの現場の地獄絵図を描くパターンもおなじみ。『セルビアン・フィルム』(10)は経済的に困窮した元ポルノスターの男性が、家族のために高額なギャラに釣られて仕事復帰したら、なんとスナッフフィルムの現場だった!というもの。壮絶なゴアと共に描かれる主人公の地獄の体験は、その過激さゆえに46か国以上で上映禁止になった。

このたびデジタルリマスター版としてリバイバル公開された『ミュート・ウィットネス』も、スナッフフィルムの現場を目撃してしまったら…という“現場もの”。

声を出すことができない女性の恐怖の一夜を描く(『ミュート・ウィットネス』)
声を出すことができない女性の恐怖の一夜を描く(『ミュート・ウィットネス』) / [c]1995 Anthony Waller. All Rights reserved

特殊メイクアップアーティストのビリー(マリーナ・スディナ)は、姉の恋人が監督するホラー映画の撮影のためにモスクワのスタジオを訪れたが、ある日の撮影後、忘れ物を取りに戻った際に施錠されスタジオに閉じ込められてしまう。助けを求めてスタジオを彷徨うなか、ポルノの撮影に出くわしたと思いきや、直後、女性の胸にナイフが突き立てられる瞬間を目撃してしまい、バレないようにその場から立ち去るのだが…。

スナッフフィルムのいかがわしさを物語に落とし込んでいる点もお見事(『ミュート・ウィットネス』)
スナッフフィルムのいかがわしさを物語に落とし込んでいる点もお見事(『ミュート・ウィットネス』) / [c]1995 Anthony Waller. All Rights reserved

深夜のスタジオではポルノが撮影されており…(『ミュート・ウィットネス』)
深夜のスタジオではポルノが撮影されており…(『ミュート・ウィットネス』) / [c]1995 Anthony Waller. All Rights reserved

犯行を目撃者した女性が体験する地獄の一夜を描いた本作。殺人の撮影がはたして本当だったのか?ニューロティックな要素も含まれており、真偽が定かでないスナッフフィルムの都市伝説的な側面を抑えたストーリーはお見事。声が出せないという設定が生みだすスリリングでもどかしい展開や、ヒッチコックやデ・パルマを彷彿とさせるアンソニー・ウォラー監督の演出など、見応えのあるサスペンスだ。
『ミュート・ウィットネス デジタルリマスター版』は8月15日より公開中
『ミュート・ウィットネス デジタルリマスター版』は8月15日より公開中 / [c]1995 Anthony Waller. All Rights reserved

裏社会ならではの蠱惑的なムードや真偽が定かではないからこそのいかがわしさ、過激な描写が好奇心を煽るスナッフフィルム。その世界は、安心、安全な映画の中のみに留まっていてほしいものだ。

文/サンクレイオ翼

Comments

I want to comment

◎Welcome to participate in the discussion, please express your views and exchange your opinions here.