国連で平和維持活動(PKO)を統括するジャンピエール・ラクロワ事務次長が20日、東京都内で毎日新聞のインタビューに応じた。大国間対立に起因する世界の分断で、紛争当事国に収拾を促す国際社会の圧力が弱まっている現状に懸念を表明した。そうした中で国連PKOに貢献を続ける日本の姿勢を高く評価し、連携強化への期待を表明した。
東西冷戦の崩壊後、世界の平和と安全に果たす国連の役割が注目されるようになった。停戦監視や紛争の再発防止に取り組むPKOも21世紀に入って拡大。現在、アフリカ、中東、アジアなどに11のPKO部隊が展開し、約8万人の要員が派遣されている。だが、近年はアフリカなどで派遣の減少傾向が顕著になっている。
背景には、アフリカ諸国と軍事面で関係を強化するロシアの存在がある。露国防省は民間軍事会社「ワグネル」を引き継ぐ形で「アフリカ部隊」を設立し、各国に要員を派遣している。西アフリカ・マリの暫定政権はロシアに接近し、駐留していたフランス軍、国連PKOが撤収を強いられた。ロシアはスーダン内戦にも介入を強めている。
ラクロワ氏は、PKOが直面する課題について「PKOは危機を政治的に解決する紛争当事国の努力を支援するものだ。国際社会の団結した働きかけや圧力があってこそ当事国は協力する。だが、国際社会は分断しており、政治的解決が妨げられている」と指摘した。
日本は国連PKO予算の約7%を分担し、米中に次ぐ世界3位の拠出国だ。南スーダンのPKOには司令部要員の自衛官4人を派遣し、国連、アジア・アフリカの要員派遣国との「三角協力」も進める。ラクロワ氏は「国際犯罪、テロ、気候変動が絡んで紛争が複合型の様相を強める中、財政・要員面を含めた日本の支援に感謝する」と強調した。
一方、ロシアによるウクライナ侵攻の停戦を見据え、フランスなど一部の欧州諸国はウクライナの安全を保証するための部隊派遣の用意を表明している。当事国双方の同意が必要になるが、ラクロワ氏は「停戦の監視を地域機構、有志国、国連PKOのいずれが担うことになっても、デジタル化など技術革新に対応した仕組みが欠かせない」と述べ、国連としてノウハウを提供する用意があるとの考えを示した。
ラクロワ氏は第9回アフリカ開発会議(TICAD)の関連会合出席のため来日し、林芳正官房長官らと会談した。【福島良典】
ジャンピエール・ラクロワ事務次長(Jean―Pierre Lacroix)
1960年生まれ。フランスの外交官として駐スウェーデン大使、国連局長などを歴任。2017年から国連の平和活動担当事務次長。
Comments