「そして、彼の経験や知識、考え方、恐怖や喜び、羨望(せんぼう)などもすべて取り込みました。いえ、取り込んだという言い方は正しくありませんね。私と彼とは同化(シンクロ)したのですから、そこに主従はありません。その時私は壁博士であり、小さな船の船長にもなったのです。私は、彼がなぜ確かすぎる壁に阻まれてもなお遠方を目指し続けることができたのか、知ることができました。それは淡い期待のようなイメージでした。彼はその淡いイメージを文章にしていました。そして、この『航海日誌』にその文章を書きつけていました。その文章は今や私のための文章でもあります」
そこまで言うと、ドット絵の壁博士は一瞬沈黙し、邪念を振りはらうように首を振った。
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