
魅惑の場所がある。
若手研究者や大学院生らが集い、学術的なテーマをさかなに夜な夜な語り合う。さながら大学のゼミに近い雰囲気もあり、その場に加われば社会人も心が躍る。これまで関わりがなかった分野の学術に気軽に触れることもできる。
「天文学についての会話を楽しむ」「各時代、世界各地域の写本を研究者で集まって読む」「前近代の琉球を地政学的観点から眺める」「心理学の土台を研究者にたずねる」――。東京都内に店舗を構える「学術バー Q」では、連日、多彩なテーマでイベントが開かれている。
大きな特徴は、その講師役を務める中心となるのが若手の研究者や大学院生、専門性を有する実務家らであることだ。広く募ってはいるが、決して「誰でも、何でもあり」にはしていないのもポイントで、査読付き論文誌への論文掲載といった実績も加味して審査をし、一定の学術的な質を担保しているという。
客層は、「ザ・勉強好き」の社会人、大学院生や学部生、若手研究者らが多い。毎回6~7割は初参加で、一人での参加がほとんどだという。20人程度が入れる店内では、講師との距離が近いため気軽に質問でき、講師や他の客との雑談や名刺交換といった交流も自然に生まれやすい。
店は各路線の上野駅から徒歩約5分、JR御徒町駅からは約2分の場所に立地する。1時間1000円(学生は500円、飲食代は別途)のタイムチャージ制で、バーと銘打ってはいるが、ノンアルコールでも問題はない。店長の山口真幸(まさき)さん(33)は、東京大文学部で社会心理学を学んだのち、学術系の出版社での編集職などを経て、2024年4月に店をオープンさせた。
目指すのは、学術に気軽に出合える場を提供することによって学術を社会に根付かせること。そして、所属先の違う研究者や学生同士がつながり、知識や研究スキルを共有していく場になっていくことでもあるという。
例えば、キノコ研究に魅了された院生から学ぶ
記者もイベントに参加してみた。
「真核生物の中で分類していくと、キノコは植物よりも動物に近い生き物なんです!」。この日のテーマは「きのこから始める生物学」。講師役は東京農工大大学院・博士課程3年の佐藤さん(28)で、木材を分解する能力を持つ「木材腐朽菌」と呼ばれるキノコを研究しているという。店内に設置されたプロジェクターに資料を投影しながら、…
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