
4月25日公開の「吉田寮日記」第2話は、受験生をねぎらう「おつコン」を取り上げた。記事では、取材時に不在だった寮生にも触れている。
<吉田寮には京大カレー部の「エース」と呼ばれる寮生がいるそうだが、「おつコン」開催時はカレーの勉強でインドに渡航しており、不在だった>
「カレー部のエース?」。読んだ方も気になったのではないか。今回は、その人物に話を聞いた。【山崎一輝】
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約120人が共同生活を送る京都大学吉田寮(京都市左京区)には、個性豊かな学生が集まっている。
その中でも、唯一無二のカレー愛を持つ寮生がいる。工学部4回生の藤田昂太郎さん(22)だ。親しみを込めて「カレー部のエース」と呼ばれている。
藤田さんが所属する京都大学カレー部は、食べ歩きをするサークルとして2010年に結成された。メンバーは約50人で、学園祭の出店などにも参加。近年はレシピ本を出版するなど活動範囲は広がっている。
藤田さんは、受験後の「おつコン」で吉田寮の存在を知った。入学後はアパートで1人暮らしを始めたが、寮の居心地が良く次第に寮生の友達が増えていった。
料理は大学に入るまで、ほとんどしたことがなかった。1人暮らしを機に好物のカレーを作るようになったが、鍋で一度作ると3日間はカレーを食べる。いつしか、自分が作ったカレーを「人に食べてもらいたい」という思いが生まれた。2回生だった23年、吉田寮に移り住んだ。

藤田さんがカレーの聖地インドに初めて行ったのは24年の春休み。北インドを回ったが、腹を下す「洗礼」を受けたことで予定を切り上げて帰国した。
苦い思い出を振り払うため、今春に再びインドに渡った。コーチ、マドゥライ、チェンナイ、ベンガルールなどインド南部の都市を約1カ月かけて旅行した。
「1日3食と言わず、4食、5食、カレーを食べた」。いろいろなスパイスを使ったカレーがあることは知っていたが、それを自分の舌で体感できたことが、今回の大きな収穫だった。地域によって味が全く違うことも実感。カレーの奥深さを再確認した。
「誰もが、技量がなくてもおいしく作れて、技量があればさらにおいしくなる」。カレーの魅力をそう表現する。食材やスパイスの組み合わせは無数にあり、アイデアを落とし込みやすい。理屈を突き詰めて考えることが、日々学ぶ工学に似ていると感じている。
カレーは週に1回程度作り、ヨーグルトの代わりに酒かすを使用したものや、チョコミントを加えたものなど今までに約150種類を調理してきた。23年の学園祭では、だしを取ったお茶漬けの上にペースト状のカレーを乗せ、インドの漬物アチャールを添えたレシピを考案して行列ができた。
昨年は、自作カレーで対決するテレビ番組に出演。2カ月前から試作品を作り、寮生に何度も食べてもらって意見を募った。「ワインで煮込んだ牛テールのこしょう炒めカレー」は、100人超の中から準決勝進出を果たした。「寮のみんながおいしいと言ってくれたことが励みになり、自信を持つことができた」

食堂には火力の強い大きなコンロやさまざまな調理器具が備えられた本格的な調理場がある。そんな食堂も、築100年を超える現棟とともに大学側が提訴した19年の訴訟で明け渡しを求められた。
24年に京都地裁が一部の寮生に対する大学側の請求を棄却した後も双方が控訴して訴訟は続いているが、寮生が退寮を求められたのは今回が初めてではない。
40年以上前にも施設の老朽化や運営の「正常化」を理由に、大学は寮生に在寮期限を設定。その際、食堂職員の配置転換が行われたことで食事の提供が停止された。交渉の末、89年に期限は撤廃されたが、食堂営業は再開されなかった歴史がある。
係争中の裁判では、大学側が明け渡しの理由に寮の老朽化などを挙げている。一方、寮自治会も以前から補修を求めて大学にかけ合ってきた。藤田さんも生活の中にあるからこそ、寮の老朽化を痛感しているが、歴史ある寮やそこで育まれたコミュニティーは他に代えがたく、無くしてしまうのは「あまりにも、もったいない」と訴える。「その価値を知っていれば、吉田寮を無くそうとは思わないはずだ」=後編へつづく
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