きむふな・選 『城の崎にて』=志賀直哉・著

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 (新潮文庫 737円)

『小僧の神様・城の崎にて』所収

 「城の崎にて」を初めて読んだのは、40年ほど前。韓国の大学で日本語を学んでいた2年生の後期のことだ。文庫本で9ページ強の短い作品だが、週1回の授業で1カ月以上はかかったと思う。

 高校の教科書に掲載されている白樺(しらかば)派の代表作で、日本の近代文学を理解する上で欠かせない名作だと教わった。日本の文学史など白紙状態で、白樺は文学作品の中に登場する木の名前で、まだ見たこともなかった。

 志賀が事故で重傷を負い、静養生活をしたことで生まれたこの作品は、「山の手線の電車に跳飛(はねと)ばされて怪我(けが)をした、その後養生(あとようじょう)に、一人で但馬(たじま)の城崎(きのさき)温泉へ出掛けた」と始まる。これがいわゆる「私小説」というものか、と思った。しかし、生と死の静かな対峙(たいじ)という作品のテーマをゆっくり考える余裕はなかった。無駄のない簡潔な文章が特徴らしく、お陰で文法…

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