池田千尋監督が吉岡里帆・水上恒司と"どこまで近づけるか"トライした映画『九龍ジェネリックロマンス』

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「恋は雨上がりのように」の眉月じゅん最新作・「九龍ジェネリックロマンス」が実写映画化。8月29日(金)より公開される。
吉岡里帆演じる、九龍城砦の不動産屋で働く鯨井令子は、水上恒司演じる先輩社員の工藤発に心惹かれていた。令子はある日、工藤にかつて婚約者がいたことを知ってしまうが、その婚約者は自分と全く同じ姿をしていた。過去の記憶がない鯨井令子と誰にも明かせない過去をもつ工藤発。2人の距離が近づくほど深まっていく謎の真相にたどり着く時、二人は究極の選択を迫られる─。

HOMINISでは今作の監督・池田千尋にインタビュー。かつて香港に存在した九龍城砦の風景を再現するため、今なお懐かしく古めかしい街並みを残す台湾で真夏に敢行された撮影中のエピソードや、吉岡・水上に対する印象、作品内のこだわりについて聞いた。

――今作の監督を務めることになった経緯を教えてください。また決まった時の感想があればお願いします

「ROBOTのプロデューサーさんから、この原作の映画化を進めようとしているとお話いただきました。原作1巻のラストで世界が唐突に表情を変えた瞬間に驚いたことをよく覚えています。SF的な世界の中で2人の恋が緩やかに進んでいくのかと思いきや、突然価値観がひっくり返る瞬間が訪れ、恋することの真理に向き合わなければならなくなる。その深みと鋭さに惹かれたこと、それが主軸だと理解したので、OKしました」

――今回、台湾での撮影でしたが、台湾ならではの楽しかったことや印象に残ったことはありますか?

「海外の方と一緒に作品作りをするのは初めての経験でした。実際に始まってみると、1つ1つの打ち合わせでも自分の言葉のニュアンスが伝わっているのか常に不安で、クリアに通訳してもらえるようどう伝えるか、いつも以上に力を使いました。思いがけない出来事も多く、何度もロケハンして場所を決めても結果的にNGが出てしまい、時間との勝負の中で修正を迫られたりと苦労も多かったですが、海外で撮影経験のあるカメラマンの方が『監督、(海外での撮影は)こういうもんなんだよ!』と笑ってくださり救われましたね。優秀なスタッフの皆さんのおかげで前向きに臨機応変に、楽しみながら進めることができました。台湾という土地の持つ雑多で懐かしさの残る魅力、台湾スタッフの皆さんのパワーにも助けられましたね。台湾は労働時間などのルールが明確で現場で働くスタッフがきちんと守られていて、見習うべきと思いましたし良い勉強になりました。」

――思いがけないエピソードがたくさんあったようですね!

「そうなんですよ!ロケの前半には度々午後3〜4時頃から強烈なスコールに襲われたり、中盤では台風が来たりと、どうにもできない自然の前で実際に撮影できなくなったこともあったのですが、潔く中止にして『ここまでで撮れたもので勝負しよう』とか、『まだ行けるかトライしよう!』とか、臨機応変かつクリアな判断を迫られることの、繰り返しでしたね」

映画「九龍ジェネリックロマンス」吉岡里帆演じる鯨井令子
映画「九龍ジェネリックロマンス」吉岡里帆演じる鯨井令子

――キャスティングについてお伺いします。鯨井令子と鯨井Bという2人の役柄を演じられる吉岡里帆さんと、実年齢より9歳も年上の工藤発を演じられる水上恒司さんのキャスティングはどういう経緯で決まったのでしょうか?

「吉岡さんは割と早めの段階で決まったのですが、工藤が決まらず、プロデューサーの皆さんも苦労していた中、水上くんの名前があがりました。役柄より実年齢が若いのですが、水上くんは、どの作品でも強い実在感がある役者さんだと感じていたので、彼ならいけるんじゃないかと思ったことは覚えています」

――吉岡さん、水上さんとは撮影前にどんなお話をされましたか?また、監督から演技についてお願いしたことや演出についてのやり取りなどがありましたら教えてください

「吉岡さんは、映画は監督のものだと思ってくださっている役者さんで、『監督に私を委ねます』と飛び込んでくださいました。原作の令子の髪型はショートカットなのに対して、当時の吉岡さんはロングヘアで、髪を切るのはハードルが高いことだったんですが、吉岡さんご自身が役のために髪を切ると決めてくださって、このビジュアルが実現しました!水上くんも、年上を演じるにあたって、彼の方から『これって、体を大きくした方がいいですよね?』と言ってくれたりと、お二人とも最初からこの作品に正面から取り組む覚悟を持ってくださっていて、気が引き締まりました。2人揃ってお会いした時に、自分が監督として作品を作る上で実感していたことをお話しました。監督と俳優部、特に主役の方とは、"お互いにどこまで近づけるのか"が作品にも画にもすごく残る感覚があって。私は2人とどこまで行けるかトライしたいとお話したんです。それに対して吉岡さんは『私もバーンと全部開くんで!』と言ってくださって、実際にそこから互いに開くコミュニケーションを積み上げることができたと思っています。
水上くんは準備中から密に連絡をくれました。工藤の人物像をつかむために、最初の大事な場面のセリフをボイスメモに吹き込んで何度も私に送ってきてくれたんです。それに対して私も工藤像を具体的に伝えながら工藤という人物を一緒に掴んでいった感覚です。俳優さんの中でもこういうアプローチしてくださる方はなかなかいないので、ビジョンを具体的に共有できてとても面白くありがたかったです。
吉岡さんとは現場に入ってから感覚を共有しながら一緒に走り出しました。まずトライしてみて、それから私が方向を調整するのですが、彼女は理解力が高く思い切りもある。私と同じものを見ようとして、同じ方向へ飛び込んでくれるんですよ。吉岡さんの自らをさらけ出せる強さに心動かされる日々でした。」

映画「九龍ジェネリックロマンス」水上恒司演じる工藤発
映画「九龍ジェネリックロマンス」水上恒司演じる工藤発

――原作の眉月じゅんさんとは映画化にあたりどのようなお話をされましたか?

「眉月さんとはプロットから脚本まで、たびたびお話する機会をいただきました。映画化への理解がある方で、『原作の要素全てを2時間で拾いきることは難しいですよね』と最初に言ってくださって。眉月さんと私が原作で大事にしたいところが一致していて、『そこさえ大事にしてくだされば、設定を変えて構いません』と、こちらが驚くぐらい柔軟に寄り添ってくださいました。もちろん眉月さんの中でどうしても外してほしくない大事な点もあって、そこのやり取りは最後まで細かく進めました」

映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真
映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真

――本作は食べ物のシーンの印象が強いですが、撮影でのこだわりはありますか?

「私、実は食べ物に異常な拘りがありまして(笑)。特にこの作品では"食べる=生きる"という感覚があったので、そこをどうリアルに見せられるかにはこだわっています。例えば、スイカをどの厚さで切るか、切り方がどうなのか?とか。ロケ地のスイカは日本のものと違って細長くて大きいので、理想の形にならなくていろんな切り方を延々と試しました。レモンチキンもかなり拘りました!現地の唐揚げは小さいものが多いのですが、大きいものを出したくて。私の中でレモンチキンを食べているシーンは強い意味があって、この世界は幻の世界だと観ている人にも情報として伝わっている中で、レモンチキンをおいしいと食べていることで『ちゃんと生きてるんだ』という印象をつけたかったんです」

――特に撮影で意識された点や、映像面で工夫された点はありますか?

「"記憶の中のショット"と"現実のショット"をどう分ければ明確になるかをまず考えました。また、このストーリ―は主人公である令子が、実はもう1人いるという鏡合わせの世界の話なので、鏡を作品の中でどう扱っていくか、カメラマンの方ともアイディアを出し合い、実験も重ねながら撮影しました」

――こだわりのシーンがたくさんあると思いますが、その中でも特に池田監督の印象的なシーンはありますか?

「とにかくこの作品に映るものは"懐かしく"すること、実際の九龍城砦とは違ったこの作品だけの"私たちの九龍"を作ること。この2点が今作を作る上でのキーワードでした。一つひとつ目に映る全てのものに懐かしさを感じさせたいというこだわりで、小道具からエキストラの設定や衣装まで細部に作り込んでいます。台湾という場所そのものに人の存在の仕方も含めた懐かしさがあり、その空気感も存分に生かした九龍を目指しました。
そんな異国のリアルな空気の中で、令子と工藤のシーンを密に積み上げていったこともあり、二人の関係性がリアルに揺れ動いていく感覚があったのですが、それがついに結ばれて二人の心が通い合った瞬間を撮れたと感じた、あるシーンが強く印象に残っています。そのシーンで最後に引きの画を通しで撮影した時、吉岡さんがそれまでになかった思いがけない動きを見せてくれたんです。その瞬間が生まれたことに感動してしまって、『カット』の声が出なくなったんですよ。胸が詰まりすぎて声が出なくなるというのは、監督業の中でも初めての経験で、忘れられません」

――最後に、作品を観る方にメッセージをお願いいたします

「眉月さんの原作漫画『九龍ジェネリックロマンス』を好きな方にはもちろん、まだ読んでいない方にもぜひ観てもらいたいです。人が誰かを好きになるパワーとか、それを人に伝えるためには何が必要かということを、この作品では描いています。伝えるためには自分をまずは受け止めなきゃいけない。それは自分が背負ってきた過去に向き合うことでもあると思うんです。自分を受け入れて、気持ちが通じ合うことができたら、未来に何が起こっても、それができた自分は一生残り続けると感じられる作品です。恋をしたい人も、今、恋をしている人もぜひ観てほしいです。また、異国の街の懐かしさであったり、ストーリーの中のたくさんの謎であったり、宝箱のようにいろいろな要素が集まった映画になっていますので、多くの人に楽しんでいただけたら嬉しいです」

映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真
映画「九龍ジェネリックロマンス」場面写真

文=HOMINIS編集部

映画情報

映画「九龍ジェネリックロマンス」
2025年8月29日(金)公開
(c)眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
企画・配給:バンダイナムコフィルムワークス

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