/162 辻村深月 画 佐伯佳美

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『そうですか、臼井さんのご紹介で……』

 凌生からざっと事情を説明された山本が言う。臼井の名前を出す時の声が、気のせいかもしれないが、なんだか感慨深げだ。

『では、その川崎の施設に?』

「うん。でも、その後に実は、もう一カ所、面接に行ってて。前にうちにいた介護士が、やめて、今、多摩市の施設にいて。まあ、そっちもここからは遠いんだけど」

 説明しながら、どこから話せばいいだろうと考えながら、なんだかこそばゆいというか、これまであまり経験したことのない感覚に陥った。これからの話を山本が喜んでくれるんじゃないかという予感があって、それを想像したら、照れくささのような落ち着かない心持ちになる。

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