静岡県警、20年ぶりカウンセラー募集 初の行政職、被害者支援拡充

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静岡県犯罪被害者等支援推進協議会の初会合では、有識者が支援体制に関して講演した=静岡市葵区の県庁で2025年8月25日午後2時50分、藤渕志保撮影 拡大
静岡県犯罪被害者等支援推進協議会の初会合では、有識者が支援体制に関して講演した=静岡市葵区の県庁で2025年8月25日午後2時50分、藤渕志保撮影

 静岡県警がおよそ20年ぶりに心理カウンセラー職を募集する。異動が多くカウンセリング業務に専従できない警察官採用ではなく、県警では初の警察行政職員としての採用だ。犯罪被害者への支援を充実させ、寄り添った捜査体制の拡充を目指す。

 犯罪や交通事故に巻き込まれると、被害者や家族には極度のストレスがかかり、心身の不調につながる。治療費や休職などに伴う経済的困窮、報道機関の取材や誹謗(ひぼう)中傷も大きな負担だ。社会への不信感や不安、自己否定を強め、孤立したり長期間トラウマに苦しんだりする人も多い。

 被害者らを支援するため、全都道府県警にカウンセラーが配置されている。2024年4月現在、全国209人のうち167人は公認心理師や臨床心理士の有資格者だ。05年施行の犯罪被害者基本法で国や自治体が心のケア施策を担う責務が明記され、体制整備が進んだ。

 県警でも、法施行に前後しカウンセラー職を6人採用した。現在も4人が勤務するが、「被害者支援カウンセラー」の肩書で専従で支援に関わるのは1人だけだ。他の3人は警察署や本部厚生課で働く。

 専門職なのに別の業務に就いているのは、当時の採用職種が「警察官」だったためだ。一般の警察官と同様に警察学校に入り、交番勤務などにも従事するため、カウンセリングに専念できない。捜査の知識があることは有利だが、定期的な異動があり、専門知識を生かせず失望して退職した人もいた。

 県警によると、近年のカウンセリング回数は23年度が22事件67回、24年度は17事件61回。性犯罪が最も多く、殺人、ひき逃げなどと続く。カウンセラーは事件を捜査する署などへ赴きカウンセリングにのぞむ。数回で終わることも、心の傷が深い人と年単位で関わり続けることもある。他にも最初に被害者と接することの多い警察官への指導や大学の授業、啓発活動など業務が多く、現状の1人ではやりくりが大変だ。

 過去に採用された4人はいずれも40代後半で、新規採用がなければ20年以内にカウンセラー職が不在になる。後進を育成し支援を充実させようと、県警は採用試験を担当する県人事委員会と長く交渉を重ねてきた。警察行政職かつ有資格者(取得見込みを含む)に限る選考試験方式を望んだことで、交渉のハードルは上がった。

静岡県警本部=高場悠撮影 拡大
静岡県警本部=高場悠撮影

 一般的なカウンセラーも犯罪被害者の相談を受けることはあるが、警察は真っ先に向き合うポジションだ。カウンセラー側にも強い負荷が懸念され、面接中心で適性を測る方式を重視したという。調整は難航したが、ようやく8月中旬に26年度の警察行政職員(心理カウンセラー)1人の採用が認められた。

 県警警務課は「被害者支援の重要性、必要性は増している。キャリアを継続できる行政職で採用し、エキスパートとして活躍してもらいたい」と狙いを話す。募集は10月まで。今後も複数年かけて採用者を増やす考えだ。

 被害者や遺族の不安や悩みを聴くことは、立ち直りの手助けになるだけでなく、捜査の進展や加害者への適切な処罰を間接的に支える仕事でもある。公認心理師などの資格を持ち、今は県警唯一の被害者支援カウンセラーとして働く警察相談課犯罪被害者支援室の担当者は「生きる力を取り戻す過程に伴走できるところがやりがいだ」と語っている

負担軽減へワンストップ体制構築

 国も、犯罪被害者や遺族への支援強化を推進している。給付金の引き上げや、事件直後からサポートする弁護士制度の創設も決まった。特に近年は、日常生活を続けていくための負担減や中長期にわたる支援を重視する。

 これまでは被害者や家族自身が心痛を抱えながら情報収集や申請に動くほかなく、支援制度を利用しづらいという声が多かった。各窓口で繰り返し説明を求められて2次被害が生じるなど、負担の大きさが課題だった。

 こうした流れの中で国は昨年、多様な支援を提供する「ワンストップサービス体制」の構築に向け、手引を取りまとめた。

 これを受けて県内でも今月18日、「県犯罪被害者等支援推進協議会」が発足。前身は警察だった所管を県に移し、県内35市町全てが参加した。行政以外に県社会福祉協議会や日本司法支援センター(法テラス)、NPOなど60団体で構成する。

 ワンストップ窓口となる県くらし交通安全課に、社会福祉士の資格を持つコーディネーターを配置し、被害者らのニーズに合わせて必要な支援先につなぐ。福祉の知見を生かし、被害者の負担を減らしながら関係機関の連携を深める「ハブ(結節点)」の役割を果たすという。高橋勝課長は「包括的で途切れない支援の充実に取り組みたい」と話した。【藤渕志保】

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