劇作家・末満健一さんが手がけるTRUMPシリーズのミュージカル『キルバーン』が、2020年コロナ禍での全公演中止を経て、2025年9月13日(土)に幕を上げる。主人公の不死卿ドナテルロ役は、企画当初から出演が予定されていたアーティストであり、俳優としても唯一無二の存在感を放つSOPHIA松岡充さんが務める。そこで、念願の公演となる本作へ懸ける思いや音楽朗読劇『黑世界』への出演を通して感じたこと、そして俳優・松岡充としての姿についても語ってもらった。
■表現者としてシンパシーを感じた末満健一との出会い
――2020年の公演が中止となってしまい、本作は5年越しとなる念願の上演かと思います。最初に『キルバーン』のオファーを受けたときには、どのようなお気持ちでしたか?
【松岡充】当時の僕はTRUMPシリーズに触れたことがなく、知識がなかったので、自分なりに勉強はしましたが、理解の追い付かない部分も多くありました。わからないなら、それを作っている方にお会いして話を聞いてみようと思い、オファーを受ける前にまずは末満さんと二人きりでご飯を食べに行ったんです。そうしたら、末満さんとは世代も近く、僕と同じ大阪出身ということで、すぐに意気投合しまして。音楽と演劇でフィールドは違いますが、表現者としてシンパシーを感じたんですよね。この人とだったら一緒に“もの創り”ができるなと。
――『キルバーン』の中止を受け、代替作として上演された音楽朗読劇『黑世界』にご出演されましたが、作品への理解が深まった今、TRUMPシリーズの魅力はどこにあると感じていますか?
【松岡充】人生の中で誰もが必ず通る、青春時代というものがあると思います。一番傷つきやすい時代でもあるけれど、怖いものが何もなく、儚い輝きを持っている。キャリアや年齢を重ねて得る宝とはまた違う人生の宝がその時代にあり、TRUMPシリーズではそれを“繭期(まゆき)”と表現しているのかなと。みんながみんな違う価値観を持ち、同じではないからこその葛藤や輝きがあって、その一瞬がTRUMPシリーズの世界を構築している。事実と真実の狭間に世界が作られているというか。そこがこの作品の魅力なんじゃないかと思いますね。
――世代特有の“儚い輝き”、“キャリアや年齢を重ねて得る宝とはまた違う人生の宝”といったものがあるというお話に、松岡さんが生み出す楽曲と芯の部分で通じるものがあるように感じました。
【松岡充】まさにそうだと思います。僕もそれは感じていますね。僕が生み出す楽曲や歌の真ん中にはそのテーマがありますし、その一瞬の煌めき、喜びがあるから、人はその後の人生を頑張れたり、またその景色に出合うために切磋琢磨する。そうやって人は生きていくのかなと思います。末満さんは、それらをTRUMPの世界でとても繊細に緻密に描いているなと。本当に「末満さんの頭の中はどうなっているんだろう」と不思議に思いますし、その世界観を構築できる末満さんは、やっぱり天才なんでしょうね。
■「役になりきるのではなく、役を引き寄せる」松岡充が見つけた答え
――ドナテルロを演じるうえで大切にしようと考えていることはありますか?
【松岡充】自分で勝手に決めつけないということです。“ドナテルロはこうである”と決めつけてしまうことは簡単だしラクだけど、無限の可能性を潰してしまうことにもなると思っていて。そして、末満さんも“松岡充が演じるドナテルロはこうでないといけない”という考えはもっていないと思うんです。僕が自由に演じるドナテルロをおもしろがって、期待してくれているような気がします。
――あえて演技プランをかためずに、稽古場や本番で感じたことを取り入れながら自由に演じていく、と。
【松岡充】そうですね。お芝居は化学反応だと思いますし。その中で、どんな役であっても、僕は松岡充という一人のアーティストでいなければいけないと思っています。その役になれるのが誰でもいいのであれば、僕がやる必要もないのかなと。ビジュアル的にもスキル的にも、もしかしたらもっとハマる人がいるかもしれない。でも、それだとつまらない作品になってしまう、と思うから、僕は僕として、僕にしかできないドナテルロを目指し、突き詰めたいです。
――TRUMPシリーズの初演作となる『TRUMP』では、ペアになったキャストがTRUTH公演とREVERSE公演で役をチェンジするという構成で上演していました。まさに今、松岡さんがお話された、演じる人によって出てくる違いを楽しむことに通じるところかと思います。
【松岡充】演劇はそうでないとおもしろくないですよね。昔の話になりますが、俳優として入った現場で「SOPHIAの松岡充はいらない」と言われたことがあって、「だったらどうして僕にやらせるんだ!」と、そのときは言い合いになりましたね(笑)。
今年で23、24年ほど俳優としての活動もやらせていただき、その中で僕が見つけた答えとしては、役になるだけではなく、自分の中で役を生かすことが大切なんじゃないかなと。僕もたくさんの役者を見てきましたが、役になりきろうとする人は、役と時代に消費されてしまうように思います。
――末満さんはそのスタンスを感じたからこそ、松岡さんへオファーされたのかもしれないですね。とはいえ、役を引き寄せるということはすごく難しそうなことだとも感じます。
【松岡充】そうですね。自分が役に染まってしまうほうが楽だと思います。逆に役を演じながらも自分であり続けるというのは、とても難しいです。役を自分の中に入れたときに、拒絶反応を起こすこともありますし。でも、そのほうが絶対におもしろいしやりがいもあると思うんです。
――演じる役と向き合うたびに、悩みはいつも生まれますか?
【松岡充】めちゃくちゃ生まれますよ。そして、気が狂いそうになる。逃げたい、怖いと思うときはいまだにあります。だから僕は基本的に、俳優活動と音楽活動を並行してやらないようにしています。演じるうえでの責任として、同時には絶対に無理なので。
――ドナテルロという役は、悩みの多い役になりそうですか?
【松岡充】稽古前ということもあるのですが、まだまだ探っている段階です。それで、稽古が始まる前に一度、末満さんとお話をしたいなと思っています。
脚本の中には書かれていない行間の思いというものが必ずあると思うのですが、そこを末満さんに確認したいんです。この行間に何か考えていることがあるのか、ないならないで、じゃあ僕のほうで想像していいですか?というお話をできればなと。大まかなストーリーはわかったけれど、末満さんの真意をもう少し探りたいなと今は思っています。
■「期待値を何十倍にも超えていきたい」
――本作が“脳天突き破るヒャッハーミュージカル”ということにちなみ、最近松岡さんが「ヒャッハー」と思った出来事があれば教えてください。
【松岡充】僕は大阪府門真市生まれなのですが、そこで過ごした時間は短く、親の都合で幼少期は8回ほど転校をしていました。時にはいじめられることもあったので、子どもながらに虐げられずに生きていく方法を考えて身に着けてきました。TRUMPでいうところの、“いかにイニシアチブを取るか”という感じで。
そんな根なし草のような人生だった僕ですが、今年、大阪府門真市のふるさと大使「街大使」に就任しました。僕のことを我が町の自慢だと思ってくださっているんだと、それがすごくうれしかったんです。これが最近の“ヒャッハー”でしたね。
――最後に、念願の公演となる本作へ懸ける思いをお願いします。
【松岡充】『キルバーン』が上演される会場は、TRUMPシリーズの聖地である東京・サンシャイン劇場、そして末満さんと僕の出身地、大阪の梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティです。ドラマシティは初舞台にして初主演となった音楽劇『リンダ リンダ』の大阪公演の劇場ということもあり、思い出深い場所。たくさんの方々に愛されているシリーズ作品なので、会場も広げようと思えば広げられるはずなのに、ここでないとダメだというこだわりを強く感じますし、僕はそんな末満さんのスピリットがとてもかっこいいなと思うんです。
だからこそ、エンタメの興業として成功させるだけではなく、世界観をしっかりと継承しつつも、『キルバーン』という作品にこだわりを持ってお届けしていきたいです。全27公演で限られた席数にもなりますが、チケットを手に入れてくださった方々に「観に来て本当によかった」と思ってもらえるように、みなさんの期待値を何倍、何十倍にも超えることを目指していきたいです。
撮影=大塚秀美
取材・文=榎本麻紀恵
ヘアメイク=戸倉陽子
衣装協力=Lord Camelot
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