〈 「“80年前の広島”を体験して、今の世界を見直してほしい」片渕須直監督が『この世界の片隅に』リバイバル上映に託した“切実な願い” 〉から続く
63館での上映スタートから、累計484館、観客動員数210万人を超える社会現象になった映画『 この世界の片隅に 』。第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞のほか、アニメーション映画としては異例となる日本映画賞も受賞し、海外でも高く評価されている。
映画化にあたり、片渕須直監督は、こうの史代さんの原作にどう向き合ったのか。9年をおいてあらたに感じる作品への想いも聞いた。(全2回の2回目/ 1回目を読む )

片渕須直監督 ©︎三宅史郎/文藝春秋
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パズルのように読み解いた原作漫画
──映画化に際し、徹底した史料探求、現地調査を行ったそうですね。
片渕須直監督(以下、片渕) こうのさんの漫画は、いろいろなことが明かされず、読者の想像に委ねるように描かれています。
やさしい絵柄で、キャラクターもユーモラスで親しみやすい作品ですが、実は舞台となる場所がどこなのかも、なかなか簡単には示さないのです。それ以外にも、現象を描きながら、「なぜそうなっているのか」明かされないままになっているところがたくさんあります。様々な意味を理解するには、読者の側の能動性、主体性が必要なのです。そうしたものを求められる読書体験なのです。
原作『この世界の片隅に』とは、そんなふうに、読者の側が能動的に理解してゆくことを求める漫画だったのです。自分自身の知識を増やすことで、解いていかなくちゃならない。
──クイズとかパズルのようですね。
片渕 この物語の舞台がどこであるかは、すずさんを嫁にとるために訪ねてきた周作の父が「広島も変わりましたのう」とさりげなく答えを出してくれています。その後、汽車に乗るシーンで「廣島」と駅名が描かれていて、読者は「ああ、やっぱり広島だったのか」と理解するのです。
──まだ子どもだったすずさんと周作さんが初めて出会ったのは、橋の上でした。
片渕 舞台が広島であることは原作の中で語られていますが、あの橋がどこにあるなんという橋なのか、最後まで明かされないままです。そして、よく似た構図で描かれた橋がラストの近く、昭和21年1月の場面で出てきます。その時もやはり、すずと周作が橋の上にいる。
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