音楽に合わせてテンポ良く打ち上げる花火、リムジンから眺めるプライベート花火……。夏の風物詩を巡る状況は近年、様変わりしている。その裏方の花火職人はどのような思いで作っているのか。千葉県印西市で135年以上花火を製造する「印旛火工」の飯高順仁さん(36)に聞いた。【柴田智弘】
――花火はどうやって作るのですか。
◆花火は薬品や金属粉の炎色反応を見せるものです。紅色なら炭酸ストロンチウム、緑は硝酸バリウム、青なら酸化銅などを使います。それらを火薬と混ぜて丸め、「星」と呼ばれる玉を作ります。4号玉の場合、玉の大きさは直径12センチほどです。
星を厚紙で作った球状の「玉皮」に並べていき、中心には星を飛ばす火薬の「割薬」を配置します。玉ができたら、丈夫な紙をその周囲に横・斜め・縦に貼り付け、天日干しで乾燥させます。これを3回繰り返すと完成です。
一つに2週間ほどかかり、全て手作りです。梅雨の時期はシーズンの直前なのに雨が多くて困ります。
――最近の花火大会は以前と比べてどんな特徴がありますか。
◆15年ほど前から音楽に合わせてテンポ良く打ち上げる方式が増えてきました。また、安全のため、遠隔操作で打ち上げています。
熱中症対策で秋以降に開かれる花火大会が増えました。花火は夏のイメージですが、空気が澄んでいる冬の方がきれいに見えます。花火屋としては、ぜひ冬の花火も見てほしいです。
あと、近年は個人などのお客様の要望に合わせて打ち上げるプライベート花火もあります。
――どんな要望があるのでしょうか。
◆プロポーズや還暦などの記念日、CM、イベントなどさまざまな依頼があります。1分くらいのものが多いのですが、富裕層による大がかりな花火も増えてきました。リムジンやヘリコプターの手配もします。
人それぞれの事情、ドラマがあり、誰かのために打ち上げた花火が、「きれいな花火を打ち上げてくれた」という感動につながるようサポートしています。
――近年の業界の状況はどうですか。
◆材料費の高騰で花火の値段が上がってきています。一方、日本の花火は高品質だと評判で、海外進出する事業者もいます。
一番の問題は後継者不足。県内でも以前は20社あったのが、後継ぎがなく、半数以下になりました。私は小さい時から、花火を見て育ってきたので、一度、外の会社を経験してから後を継ぎました。
打ち上げ従事者は、普段は自分の仕事を持ち、打ち上げのたびに集められますが、こちらも減っています。
――今年も花火鑑賞を楽しみにしている皆さまにメッセージを。
◆色をカラフルにしたり光の層を豊かにしたり、常に新作に取り組んで一生懸命作っています。「大事な人と一緒に眺めた花火が思い出に残るように」と願っています。
いいたか・よりひと
印西市出身。花火製造を手がける「印旛火工」の現社長で5代目の飯高秀昭さんの三男。米ウィスコンシン州の大学に留学後、国内の企業に就職。30歳を機に家業に入り、現在は花火の製造や打ち上げを担当している。
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