
令和の世に、あの男が帰ってきた。いや、帰ってきてしまった。
実写版「笑ゥせぇるすまん」の独占配信がAmazonプライムビデオでスタート。藤子不二雄Aの漫画が人気で、1980年代後半には地上波テレビアニメも作られた。
アニメは、大橋巨泉や石坂浩二らが出演していたTBS系の情報番組「ギミア・ぶれいく」の枠内で流れ、筆者も見ていた。
しかし午後9~10時台の「プライムタイム」の放送の割には、主人公・喪黒福造が織りなす世界がブラックで(ブラックすぎて)、子供ながらに「この時間に放送していいの?」と背筋が寒くなったのを覚えている。
今回の連続ドラマ(7月18日から毎週金曜に4作ずつ配信。全12話)は配信オリジナル。「ギミア・ぶれいく」の放送当時を思い出しながら、初回を追った。

おなじみのオープニング「私の名は喪黒福造……」
主演はお笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次。喪黒=秋山のナレーションで幕を開ける。
「私の名は喪黒福造、人呼んで『笑ゥせぇるすまん』と申します……」「いえ、お金は一銭もいただきません……」
おお、アニメでおなじみの、あの「口上」。秋山は作品配信に際してのコメントで「見た目・口調・ディティールにこだわって(中略)自分で言うのも何ですが、かなりの喪黒になっていると思います」と自画自賛していた。すごい自信……と思って本作を見ていたら、その見た目、雰囲気がよく似ている。
秋山といえば、架空のいろいろな職業の人物をものまねするのが持ちネタ。セールスマン(というより「せぇるすまん」)にも、本気で寄せてきている。
また映像を見進めると、主人公はいつも歯を見せて大きく口を開いているのが特徴だが、秋山もそれを再現。そうか、実写だと、喪黒はこういう人になるのか。顔の筋肉がつらなかったのかと心配になったが、秋山版の喪黒は、なかなかの「怪演」かもしれない。

初回「たのもしい顔」に「えっ……!?」
第1話の題は「たのもしい顔」。46歳の会社員、頼母子雄介(たのもし・ゆうすけ、山本耕史)が、喪黒の客になる。
この頼母子、びしっとした顔つきで、とにかく周囲から頼られる存在のよう。街を歩くだけで女性が振り向き、上司からは「君がいれば商談が成立するから」と交渉の場に呼ばれる。もっとも、醸し出す雰囲気はまるで社長のようでも、実際は係長よりも下の「主任」なのだそうで……。
さて、「たのもしい顔」と聞いた時点で、かつての喪黒を知る視聴者の胸はドキドキする。原作の漫画やアニメと少し名前は違うが、この「たのもしい顔」をしている頼母子といえば、喪黒に導かれ、とんでもない環境に身を投じてしまうはずなのだ(「たのもしい顔」の本人は幸せだったようだが)。
テレビ版ではアニメとはいえ、前述のように「この時間に放送していいの?」と驚くはずの描写だった。

名刺にQRコードの現代性
“令和版”に話を戻す。頼母子はこの顔のせいで周りから頼られ続け、心が休まるいとまがないと喪黒に訴える。待ってくれ、この展開は、喪黒に「ココロのスキマ」を埋められる「ピンチ」では。
喪黒が用意した名刺の裏には、手書きの住所があった(その横にQRコードが印刷されているのが、今っぽい)。喪黒と共に頼母子がその場所に赴くと、待っていたのは……。
さらに言えば、喪黒はおなじみの、右手の人さし指を突き出す「ドーーン!!」のポーズも、やってみせる。人気俳優の山本耕史が、あの場面を!? 筆者の背に冷や汗が流れた気がした。

宮藤官九郎脚本「えええっ」な意外な結末
ここまで引っ張っておいて何なのだが、締めくくりの部分は伏せる。ただ、ドラマの結末にもいろいろあるが、「おおー」というのか「えええっ」というのか、予想のつかない結末にこんなふうにびっくりしたのは久々だったかもしれない。
また、配信オリジナルでもあり、今作は「放送できない」内容に拍車がかかるのかと思ったが、第1話のようなテイストならば「放送できる」とも思った。将来のテレビでの放送が、想定されているのだろうか。
終盤のテロップを見ると、今作の脚本は宮藤官九郎だった。彼が編んだ世界に、引き込まれた気がする。ほかにマギー、細川徹、「かもめんたる」の岩崎う大の計4人が共同で脚本を担当している。
今作の「笑ゥせぇるすまん」は「現代風にアップデート」されているとPRされている。それは、ブラックさを薄めるということでもあるのか。それとも喪黒のブラックさは「時代を超えて」普遍、いや拍車がかかるのか。秋山の熱演につられ、喪黒の姿をついつい追ってしまいたくなるのは、何十年も前と一緒かもしれない。【屋代尚則】
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