
小芝風花と佐藤健が共演するAmazon Primeオリジナルドラマ「私の夫と結婚して」が最終回を迎えた。2024年に配信された韓国版が大ヒットしたこともあり、配信前は期待と不安とさまざまな声が交流サイト(SNS)などで上がっていた。しかしふたを開けてみれば、アン・ギルホ監督による日本オリジナル版の完成度は高く、多くの視聴者を熱狂させている(以下、本編のネタバレあり)。

ウェブ小説原作 タイムリープ復讐劇
本作は、韓国のウェブ小説を原作にしたタイムリープ復讐(ふくしゅう)劇。末期がんで苦しむ美紗(小芝)は、夫、友也(横山裕/SUPER EIGHT)と親友の麗奈(白石聖)の浮気を目撃するという絶望のなか、彼らの手によって命を落とす。
しかし、気がつくと10年前に戻っており、美紗は動揺しつつも、人生を取り戻すことを決意。さらに、1回目の人生では接点のなかった勤め先の部長、鈴木亘(佐藤)とのロマンスも生まれていく。
日本版と韓国版、多少の違いはありつつも中盤までどちらも大きな展開は同じだ。タイムリープ前のヒロインは、控えめな性格。夫はうぬぼれがひどくマザコンで借金まみれだが尽くし続け、意地悪ですべてを奪ってきた親友を信じていた。
殺されたことでようやく2人に見切りをつけたヒロインが、見た目も中身も別人のようになり、2人への復讐の計画を進めながら、人生を謳歌(おうか)する様子が痛快に描かれる。

後半の展開に大きな違いも
しかし、後半の展開は大きな違いがあった。韓国版は、ヒロインのジウォン(パク・ミニョン)の恋のライバルとして、令嬢のユラ(BoA)が登場。
夫と親友への復讐がある程度済んでも、恋敵や部長ジヒョク(ナ・イヌ)の後継ぎ問題など、次から次へと何かが立ちはだかった。
その結果、物語はまるでジェットコースターのような急展開となり、ジウォンたちをかき回すユラの存在感は強烈だったが、そのぶん復讐劇の軸がややぼやけてしまった印象も否めない。

キャラクター描写に深みが
一方の日本オリジナル版には、ユラのような恋のライバルキャラは登場せず、美紗の復讐劇と亘のいちずな恋物語に一貫して焦点が当てられていた。
また、韓国版は復讐される夫ミンファン(イ・イギョン)と親友スミン(ソン・ハユン)が笑えるほど突き抜けた悪役だった。それに比べると日本版は、より奥行きのある人間味をもって描かれている。
序盤こそ、クズっぷりが目立つ友也と麗奈への復讐にスカッとする爽快感があったが、終盤では笑いよりもシリアスさが勝り、その復讐の裏にある狂気に悲しさが感じられるように。
とくに麗奈は、凄絶(せいぜつ)な幼少期が丁寧に描かれたことで、“性格の悪い女”という一面的な描写では終わらず。また、何度も過ちを繰り返す友也にも反省や後悔の言葉を語らせることで、単なる悪役以上の存在となっていて、複雑な気持ちを抱かせる。
都会的でスタイリッシュだった韓国版とは違い、日本版の9話では、美紗と麗奈が生まれ育った富山が舞台に。あたり一面雪景色で吹雪のなか、美紗と麗奈が取っ組み合う光景は恐ろしくも美しく、脳裏に焼きつく。この回は、アン・ギルホ監督(「ザ・グローリー 輝かしき復讐」)の演出がより光っていた。

キャストのピースが見事にはまる
本作は、キャストのピースが見事にはまっていた。小芝が演じた美紗は、復讐を遂げつつも、葛藤したり後悔したりと複雑な気持ちを持ち続けるのがリアル。
徐々に自信をつけ魅力を増していき、亘と良い雰囲気になり「キスしないんですか」と問いかけるのは反則級の可愛さで、「私と結婚してください」とプロポーズをする大胆さと愛らしさに小芝の魅力が詰まっていた。
亘役の佐藤は、好きな女性がしあわせなら自分は……と遠慮するも、そのことを後悔し続ける不器用な男を自然に演じた。必死に自分の感情を抑えているけれど、美紗のことがいとおしくてたまらないときに見せる笑顔は破壊力抜群でさすがの一言。
韓国版の部長は、柔道を教えるなど体育会系なところがあったが、ケンカもしたことがないような亘が美紗のために体を張るのもまたたまらない。

横山裕、白石聖……共演陣も充実
そして、なんといっても本作をけん引したのは、友也役の横山と麗奈役の白石だろう。
横山は、モラハラ気質特有の不快さがありつつも、情けない男を熱演。極寒の山に置き去りにされてもギリギリ可哀そうに思えないくらいの友也を絶妙な加減の演技で表現した。
白石は、顔をゆがませ、口元をふるわせ、虚無の表情も見せるなど、演技は無尽の引き出し。ゆがんだ愛の暴走の果てに見せた姿は、母親、家族、愛する人からの愛に飢えた少女のようで切ない。
ほかにも、友也の母役の安部聡子、美紗の先輩、住吉役の田畑智子など脇を固めるキャストが秀逸。安部の独特な話し方は強烈なインパクトで一度聞いたら忘れられないはず。田畑も、パワハラ、夫の浮気、さらに病気と苦労が絶えないけれど、心やさしい先輩としての存在に安定感があった。(梅山富美子)
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