サバイバルゲームのはずなのにみんな撃たれ、血を流し痛がって動かなくなった。死んだ? これは本物の戦争なの?――。戦後80年となる今夏、小学生~大学院生の21人がミュージカル「戦争ごっこ」を演じた。戦争の記憶を継承する必要性が高まる中、若いゲーム世代の役者らが戦場を疑似体験して感じ取ったものとは。
サバイバルゲーム(サバゲー)は、野外や屋内の専用フィールドで敵と味方に分かれ、エアガンを撃ち合う模擬戦闘のレジャー。旗を取られたり、チーム全員が撃たれたりすれば負け。スマートフォンでもさまざまなゲームアプリで体験できる。
「戦争ごっこ」は「子どものための演劇教室」(高松市)が6月に同市で公演した。劇団マグダレーナ(同市)の演出家、大西恵さんが主宰する子ども劇団だ。
物語は、戦後100年の少子高齢化が進む「この国」が舞台。貧富の差が広がり、国は国力向上のために「産めよ増やせよ」をスローガンに掲げる。子どもらは国益を追求するよう洗脳され、サバゲーを通した戦争教育がなされていた。
主人公は、サバゲーの強化合宿に初参加したチームCのリーダー「アミ」。物語の冒頭で、銃を携えた仲間5人と広大な野外フィールドに足を踏み入れ、「ヤルかヤラレルか。地元では味わえないこの緊張感! とうとう来たんや!」と興奮して登場する。
アミ役の高松市の大学院1年、横山愛実さん(22)も「サバゲーはスマホでやったことがある。周りも結構やっている。爽快感や達成感を味わえる」と話す。スマホでは画面上で、兵士姿の約100人と銃や手投げ弾、ナイフで殺し合った。今回の台本の冒頭部分を見た時、「サバゲーを題材にした楽しい劇」と思ったという。
チームCは強豪チームのAとBとわくわくしながら模擬弾を撃ち合い、交流も深まっていく。ある日、登場人物で唯一の大人である合宿責任者の「先生」が子どもらに「今から本物の実弾を使います。今のゲームも楽しいけど物足りないんじゃない? 防弾装備も支給するよ」と告げると、歓声が湧き起こる。
先生が実弾を配った理由は、外国勢力の侵略が始まり、このフィールドも襲われるとの情報を得たからだ。子どもらに防戦させ、自分が逃げる時間を稼ごうとしたのだった。
子どもらは侵略者に次々と撃たれる。そのうちの1人はアミに抱きとめられながら「こんなに痛いなんて、誰も教えてくれんやった。死ぬのがこんなに怖いなんて、知らんかった」と言葉を絞り出し、息絶える。
最後に残されたアミは狂ったように「生き残ったもんが勝ち。やっと分かった。これはそういうゲームなんや」と叫びながら撃たれ、舞台に幕が下りる。
横山さんはアミの心情を「最後まで、戦争に巻き込まれたとは理解できず、ゲームだと信じたまま殺される」と想定し、80年前に日本が負けた戦争にも思いをはせた。「何がなんだか分からないうちに戦地に送られ、現実感を抱く間もなく死んでいった人は多かったのではないか」
先生役を演じた高松市の専門学校生、西原千尋さん(20)はこれまで、現実の戦争は人ごとに感じていた。でも、先生が子どもらを駒にして逃げる場面を演じ、「今も昔も戦争は国の上層部が勝手に始め、前線の人は駒扱いなのでは」と考えるようになったという。
脚本・演出を手がけた同市の会社員、藤田妙子さん(56)は「私も戦争は体験していないが、今の若者には戦争はもっと遠い存在。そんな世代が舞台に立ったことで、本物の戦争の怖さを少しでも想像できるようになってくれたら」と願っていた。【佐々木雅彦】
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