都議選で激戦となった杉並選挙区には、政治資金問題に関与した自民党議員がもう一人いた。
小宮安里さん(49)。政治資金問題が生じた時期の都議会自民党幹事長だったため、党の公認を得られず、今回は無所属での出馬となった。
記者がカメラを片手に候補者に密着した動画連載「民意をこの手に」。全6回の予定で、選挙のリアルに迫ります。
1回目 ある税理士の挑戦
2回目 自民ベテランの苦悩
3回目 国民民主選んだ元自民区議
4回目 自民VS「自民」
5回目 「私が優勢?フェイクだ!」(6日10時公開予定)
6回目 選挙とは 政治とは(6日10時公開予定)
定数6の杉並選挙区で前回3位当選だった小宮さんは、現職の強みもあり、私は今回も当選圏内にいるとみていた。ただ、党の支援がない中でどう戦うのかは気になっていた。
その小宮さんが選挙戦初日の6月13日に阿佐ケ谷駅近くの神社で第一声を上げると聞いて見に行った。100人を超える支援者らの前で小宮さんがマイクを握り、ゆっくりとした口調で話し始めた。
無所属での戦い
約25年前、地元選出の石原伸晃元自民党幹事長のスタッフとして地域を回り始めた思い出に触れ、「どうやったら杉並が、東京がよくなるかをみなさんから教えていただいた、あっという間の年月でした」と振り返った。
その上で、都の職員の能力を十分に発揮させるには「政治家が大切な時に責任をとること」と語り、自身も関与した都議会自民党の政治資金問題に踏み込んだ。
「過去からの慣例とはいえ、今の自分たちで受け止めて、責任を果たさなければいけないと、私はそう覚悟を決めて、初めて自民党の公認なしの無所属という形で、今回の厳しい選挙戦、挑戦をいたします」
「気丈だけど本当は…」
言葉に感情がこもり、熱を帯びてゆく。
「応援してくださるみなさんがいる限り、私は必ず勝ち上がって、都民のために、引き続き、全力で責任を、役割を、責務を果たす!」
そう締めくくると、大きな拍手が起きた。応援に駆けつけた石原氏も「この小宮さんの顔、吹っ切れてるね!」と励ましてみせたが、私には、石原氏の後継である衆院議員候補の門寛子さんの応援演説がすべてを物語っているように思えた。
「小宮さんはちょっと強がりなんです。みなさんに、本当はもっと助けてほしい。今回、無所属、非公認という形で出ることになったけれども、ご本人は気丈だけれども、初めてだし、本当は不安でたまらないんです」
高市氏の応援
同じ日の荻窪駅前で、自民党の早坂義弘さん(56)が第一声となる演説を始めた。
「杉並を愛するみなさん、日本を愛するみなさん、本日はようこそ。私は自民党公認候補の早坂義弘です」
驚いたことに、最初の演説に、高市早苗・前経済安全保障担当相が駆けつけた。早坂さんは毎朝の駅立ちに使うのぼり旗に高市氏の顔写真をプリントしている。「自民党の中で一番人気のある政治家」と高市氏を紹介して、声を震わせた。
「東京中の自民党の(都議選)候補者が高市さんに来てほしいと思っている中で最初に来ていただいた。毎朝(の駅立ちは)私は1人じゃない、高市さんと一緒に、日本の国づくりをやっているんだという思いの中でやっている」
防災をアピール
大きな拍手を浴びながら高市氏がマイクを握る。「杉並の早坂だ、東京の早坂だと思っておられるかもしれませんが、まさに日本の早坂です」と持ち上げ、全国に普及した防災士の制度作りに関わった早坂さんの実績を紹介すると、聴衆に向かってこう呼びかけた。
「都議会の中に防災の専門家がいる。これ、むちゃくちゃお得ですよ」
興奮気味の早坂さんと陣営スタッフの姿を見て、私は勢いを感じた。
自民票の奪い合いに
自民党は選挙戦中、早坂さんの応援のため、大臣経験者らを続々と送り込む。地元では、小宮さんよりも、最下位の6位当選だった早坂さんの方が優勢との見方が出始めていた。ある候補の陣営幹部はこう分析してみせた。
「自民候補は逆風で浮動票を当てにできないから、杉並のように自民系の複数の候補が立つ選挙区では、自民党票の奪い合いになる。党員や支持者にとって自民党公認の威力は絶大だ」
ベテランは党公認を連呼
言われてみれば、早坂さんの街頭演説では「自民党公認」を連呼する場面が目立った。自分こそが公認候補だと強調しているのだろうか。意地悪な質問と承知で、早坂さんにぶつけてみると、こう返ってきた。
「あ、そうですか。それはいつも(の選挙)と同じ、いつもと同じです」
選挙は候補者たちが人生を懸けて激突する真剣勝負。私は、そのシビアな現実をまざまざと見せつけられた思いがした。【大場弘行】
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