
神奈川県立の知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で入所者ら45人が殺傷された事件から26日で9年を迎えた。施設での不適切な支援が元職員の植松聖死刑囚(35)による凶行に影響を与えたとされる中、施設を出て地域での暮らしを軌道に乗せた被害者もいる。一方、県立の他の障害者施設では今年も虐待が発覚し、利用者に宛てた脅迫文が届くなど不穏な空気はいまだ拭いきれていない。
1人暮らし始め表情穏やかに
神奈川県座間市のアパートの一室。玄関ドアには表札代わりにこの部屋のあるじの似顔絵が張られている。津久井やまゆり園で暮らしていた尾野一矢さん(52)は2020年8月、1人暮らしを始めた。
尾野さんには重度の知的障害と自閉症があり、1996年から約20年間を園で過ごした。16年7月26日、植松死刑囚に腹などを刺されて一時は生死の境をさまよった。回復後、家族や福祉関係者の支援を受けて、地域で自由に生きる道を選んだ。平日はアパートから生活介護の事業所に通い、軽作業に励む。休日は介護者と遠出をしたり両親に会いに行ったりしている。
父の剛志さん(81)と母のチキ子さん(83)は、この5年間の息子の変化を実感しているという。
園に入所していた頃の尾野さんは閉鎖的な環境のストレスからか顔を強くひっかく自傷行為が目立ち、両ほおに絶えず傷があった。「自傷行為を止めるために必要だ」と職員から言われ、剛志さんらは手を拘束するための服を買って渡したこともあった。それでも「施設にいることが本人にとって一番の選択だと思い込んでいた」と振り返る。
しかし、1人暮らしを始めてから尾野さんに明らかな変化が見られた。顔の生傷が消えただけでなく、表情も穏や…
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