やなせさんがフリーになったのは1953年
2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』では、すでに明日8月7日放送の94話のあらすじが公開されています。いよいよ『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんがモデルの「柳井嵩(演:北村匠海)」に、決定的な転機が訪れるようです。
94話の内容ををまとめると、嵩は「のぶ(演:今田美桜)」に、会社を辞めてマンガ1本で勝負したいと告げるものの、結局5年経ってもまだ「三星百貨店」を辞められません。そんななか、嵩はかつてカフェで出会った「いせたくや(演:大森元貴)」と再会し、彼と話すうちに勇気づけられます。そして、のぶに改めて漫画家としてフリーになることを話すようです。
史実では、やなせさんが三越を辞めたのは、1953年3月のことでした。いせのモデルである作曲家のいずみたくさんとは、まだ出会っていません。会社員時代からマンガを多数投書していたやなせさんは、マンガでの収入が三越の給料の3倍ほどになっていたそうですが、それでもまだ漫画家として生きていけるのか、不安は大きかったといいます。
しかし、妻の暢さんに相談してみると、彼女はやなせさんに平然と「やめなさいよ、なんとかなるわ、収入がなければ私が働いて喰べさせてあげる」(『アンパンマンの遺書』より引用)と言ったそうです。その言葉でフリーの道に進んだやなせさんが、「アンパンマン」というキャラクターを生み出すのは、そこから10年以上先のこととなりますが、やなせさんはその間にマンガだけでなく、編集、作詞、舞台美術、構成作家、シナリオライター、TV番組の司会などさまざまな仕事で活躍しました。
『あんぱん』の脚本を担当している中園ミホさんは、主人公のモデルである暢さんに関して調べるなかで、「『支えた』というよりもやなせさんを『引っ張った』『背中を押した』という印象を受けました」(『NHK2025年前期 連続テレビ小説 あんぱん おたのしみブック』のインタビューより引用)と語っています。やなせさんへの「私が働いて喰べさせてあげる」という言葉は、そのなかでも象徴的なエピソードといえるでしょう。
先週の第90話の最後に流れた『あんぱん』第19週の予告では、のぶが「マンガで食べれんでも、私が食べさせちゃるき」と語る場面が描かれていました。94話のあらすじを見る限り、嵩がのぶに相談する場面は2回あるようですが、どちらのタイミングで上記のセリフが飛び出すのかも注目です。
参考書籍:『アンパンマンの遺書』(岩波書店 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)、『人生なんて夢だけど』(著:やなせたかし/フレーベル館)、『NHK2025年前期 連続テレビ小説 あんぱん おたのしみブック』(東京ニュース通信社)
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