トヨタ自動車が見込んだトランプ米政権による関税影響は年1・4兆円もの巨額に上った。日米両政府は自動車関税を27・5%から15%に引き下げることで合意したが、前期までの2・5%からは大幅な上昇で、自動車産業全体への打撃は大きい。大手各社とも高関税の「固定化」を想定せざるを得なくなっている。
「大変厳しい外部環境のなかでも、人への投資、成長投資を進めていく」
トヨタの東崇徳経理本部長は7日の決算発表記者会見でこう強調。2026年3月期の業績予想で関税以外にも円高影響(7250億円)や資材高騰(3000億円)などの減益要因を見込みながらも、必要な投資の手は緩めず、環境変化に左右されない経営体制の構築を急ぐ考えを示した。
30年代初頭の稼働開始を目指し、愛知県豊田市で新たな車両工場を建設することも発表。東氏は「日本の300万台の生産、ものづくりの基盤を失いたくない」として、事業環境の不確実性が高まるなかだからこそ国内の生産体制や雇用を維持していくと訴えた。
一方、「米国で(工場に)余力があれば活用し、現地生産をする」(東氏)として、関税影響を最小化する努力も継続していくという。自動車関税の15%への引き下げ時期は見通せず、警戒モードを続ける。
逆風が吹いているのは他社も同じだ。ホンダの藤村英司最高財務責任者(CFO)は6日の決算会見で「(高関税が)ニューノーマル(新常態)となることを想定しないといけない」と危機感をにじませた。
26年3月期の関税影響は、日米合意を受けて5月時点の想定より2000億円低い4500億円に改め、最終(当期)利益の予想も1700億円引き上げて4200億円(前期比49・8%減)に上方修正した。とはいえ、日系メーカーの中で現地生産比率が高いホンダでも大幅減益は避けられず、米国へのさらなる生産移管や部品供給網の見直しは続けていく方針だ。
日本から米国への輸出比率が高いマツダは5日、5月に公表を見送っていた26年3月期業績予想を開示した。関税影響が利益を2333億円押し下げ、最終利益は82・5%減の200億円を見込む。販売や生産体制の見直しへ「取引先と一体となってチャレンジする」(毛籠(もろ)勝弘社長)としている。
SUBARU(スバル)も26年3月期に2100億円の関税影響を織り込んだ。大崎篤社長は「米国での販売台数が全体の7割を超える当社にとっては依然として大きな影響が残る」と話し、収益の確保へ需要が高まるハイブリッド(HV)車の生産体制を強化することで挽回を目指す。
ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストは15%の関税影響について「為替換算で十数円程度の円高に振れるのに等しい」と試算する。そのうえで「供給網の見直しや高付加価値の車づくりを続けることで日本の自動車業界は十分に乗り越えられる」と指摘した。【鶴見泰寿】
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