NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。8月3日放送の第29回「江戸生蔦屋仇討(えどうまれつたやのあだうち)」では、蔦重や北尾政演<山東京伝>(古川雄大)たちが生み出した黄表紙『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』を通じて、最愛の田沼意知(宮沢氷魚)を亡くし、悲しみに沈む花魁・誰袖が笑顔を取り戻す様子が描かれた。大河ドラマ初出演で誰袖を好演する福原遥が、その舞台裏を語ってくれた。
−色っぽさもありつつしたたかな誰袖花魁は、これまでの福原さんのイメージを覆すような役です。演じてみた手応えはいかがですか。
お話をいただいてから、自分に花魁役ができるのか、不安でいっぱいでした。所作指導の先生から「首を傾げ、胸を少し前に出すだけで見え方が変わり、色っぽさが出る」と伺ったので、まずそこから取り組むようにしました。放送を見るたび、先生が教えてくださった通り、体の使い方を少し変えるだけで、印象が大きく変わることを実感し、とても勉強になっています。せりふのテンポ感や間の取り方も、演出はじめ皆さんと相談の上、試行錯誤しながら演じています。
−誰袖のしたたかさを表現する上では、どんなことを心がけていますか。
誰袖は、一つ一つ考えながら行動しているので、そう感じていただけるような話し方や見せ方を心がけています。その点、目線や表情については、台本に細かく書かれているので、それを基にしたたかさや野心的な部分を表現できたら…と思いながら演じています。
−福原さんの考える誰袖の魅力を教えてください。
天真らんまんでまっすぐで、笑顔を絶やさず、弱みを見せずに生きる姿がかっこいいですよね。でも、それだけでなく、今まで苦労を重ねてきた分、賢く計算高い部分もある。そういう姿も、本当にたくましいなと。意知さんへのアプローチも積極的で、相手にされなくてもくじけず、どんどんアタックしていく姿も、すごくかっこよかったです。
−大河ドラマ初出演、しかも初めての時代劇で花魁を演じる裏には、相当な努力があったと思います。どんな準備をしましたか。
花魁特有の軸のぶれない胸を使った動きをお稽古で習い、参考になる作品や動画をたくさん見て研究しました。それでも、頭では「こう動けばいい」とわかったつもりでも、映像で見るとなかなか思ったような動きになっていないので、苦労の連続です。そのため、先生に繰り返し教えていただきながら、日常生活でも歩き方はもちろん、しゃがみ方や立ち方、話すときの体の使い方など、柔らかくしなやかに見える動作を心がけ、現場でも本番直前まで練習し、収録に臨むようにしています。
−努力のかいもあり、とても魅力的な花魁になったと思います。そんな誰袖と相思相愛の関係だった田沼意知役の宮沢氷魚さんとの共演はいかがでしたか。
宮沢さんとは二度目の共演ですが、前回はほとんど話をする機会もなかったので、今回はいろいろとお話しをさせていただきました。とても雰囲気が柔らかく、穏やかで優しい方なので、緊張することなく、お芝居について相談しながら収録できたのは、すごくありがたかったです。
−誰袖と田沼意知の恋模様も、とてもロマンチックに描かれていました。
意知さんとの幸せな時間を、できるだけすてきなものにしたかったので、2人が深いところでつながっていることを表現できたら…と思いながら収録に臨んでいました。特に印象的だったのは、初めて意知さんに膝枕をするシーン(第25回「灰の雨降る日本橋」)です。あのときは、誰袖に対する意知さんの思いを知ると共に、深い愛情が伝わってきて、とても幸せな気持ちになりました。
−誰袖の最愛の存在だった意知は、第28回で悲劇的な最期を迎えました。意知の死を、誰袖はどのように受け入れたのでしょうか。
あまりにも衝撃が大きく、蔦重が救ってくれるまで、受け入れることができませんでした。蔦重は、幼い頃からそばにいて、何かあれば助けてくれる、誰袖にとっては兄のような存在です。第29回では「どうにかして助けたい。誰袖の笑顔をもう一度見たい」という蔦重の思いが、ひしひしと伝わってきました。だからこそ、誰袖も笑顔を取り戻すことができたのだと思います。
−そんな蔦重を演じる横浜流星さんとの共演はいかがでしょうか。
横浜さんは、本当に誰袖と蔦重のような感じで、兄のように接してくださいます。疲れているはずなのに、私が緊張していることを察して、いろいろと話しかけ、緊張をほぐしてくださったり、お芝居で悩んでいると「大丈夫だから」と励ましてくださったり…。横浜さんのおかげでリラックスしてお芝居に臨めることも多く、本当に感謝しています。
−誰袖の人生をドラマチックに描いた森下佳子さんの脚本の印象はいかがですか。
これまでも、森下さんの作品を見るたびに、登場人物一人一人に対する深い愛情を感じていたので、森下さんの作品に出演できることが、本当にうれしかったです。誰袖にも森下さんの深い愛情を感じながら毎回、新たな一面を見させてもらっています。「すてき」、「かわいい」、「かっこいい」と、どんどん愛情が湧いてくるような魅力的な女性を演じさせていただき、心から感謝しています。
−ところで、第29回では『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』の物語を描く劇中劇で、誰袖とは異なる花魁を演じていましたね。
劇中劇で演じた浮名は、誰袖とは異なるクールな女性で、所作もまったく違うので、動き方を1から教えていただき、演出の方や所作指導の先生と相談しながらかっこよく見える仕草を作っていきました。いつもの「べらぼう」と異なり、世界観もポップに作り込まれていたので、すごく楽しかったです。
−誰袖は、福原さんにとって新境地といえる役だと思いますが、これまでを振り返って、どんな感想をお持ちでしょうか。
以前から時代劇に出演したいと思っていたので、その念願がかなった作品で、こんなすてきな役を演じさせていただけたことがとてもうれしいです。大変なことも多いですが、「一生の思い出」という気持ちで、先生方のご指導をいただきながら収録に臨んでいます。おかげで、これからも勉強を重ね、もっともっと俳優として力をつけていこうと、新たな意欲も芽生えてきました。
(取材・文/井上健一)
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