駿河湾のシラス不漁の一因とされる栄養不足の水質環境を変えようと、静岡市は安倍川河口近くにある中島浄化センター(駿河区)の運転方法を変更することで植物性プランクトンの栄養源となるアンモニア性窒素の処理率を下げ、放流量を増やすことにした。目標を「きれいな海」から「豊かな海」へと転換する取り組みで、県内の自治体では初めてという。
同センターは市内最大の下水処理施設。これまでは高度成長期以降の環境汚染対策の方針に従い、下水をできる限り浄化したうえで安倍川経由で駿河湾に放流してきた。
しかし近年、水質がきれいになり過ぎて栄養分が不足すると植物性プランクトンが減り、それを捕食する動物性プランクトンも減り、さらにそれを捕食する魚類が減少する循環が指摘されるようになった。
そこで市は、浄化タンクに送り込む空気量を調節することで、下水をきれいにする微生物の働きがどう変わるかを検証した。その結果、下水の汚濁の程度によっては空気量を増やさなくても規制値をクリアでき、水中生物に必要な栄養塩類の一つであるアンモニア性窒素を増やせることを確認した。
新たな運転方法は6月16日にスタートした。以前は下水に含まれる年間約600トンのアンモニア性窒素のうち、約93%を処理して約40トンを放流していたが、今後は処理率が約85%に下がり、約90トンの放流が見込まれる。また、タンクに空気を送り込む電気使用量も減るため、年間約500万円の削減効果があると試算している。
市上下水道局によると、こうした方法で「豊かな海」を目指す取り組みは瀬戸内海などの閉鎖性海域で主に行われている。5日の記者会見で難波喬司市長は「広大な駿河湾からすれば効果は微々たるもので、目に見えてシラスの漁獲量が増えるわけではない。やれることを一つ一つ積み重ねていくことが大事だ」と語った。【丹野恒一】
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