大崎瀬都歌集『みづぐるま』を読んだ。本歌集の大きなテーマは父の死と母の看取(みと)りであり、それらの歌からにじむ心情の機微にはやはり胸を打たれるのだが、ただ、その側面だけを強調するとこの一冊を読み誤るようにも思う。
・青春の日々なればときにシベリアを激しく恋ひてゐるごとき父
作者の父は酔うとよくシベリア抑留の体験を語っていたようだ。実際には恋しいなどと思っていないはずである。しかし、凄絶(せいぜつ)な経験だったからというだけでなく、父の青春期と重なっていたからこそ、父という人間の根幹を成すものとし…
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