JR九州は香りを用いた快適性向上プロジェクトを折尾駅(北九州市八幡西区)で進めている。「心ととのう駅」をテーマに、窓口空間を利用した実証実験で、水嶋法子駅長(48)は「鉄道の駅では珍しい取り組み。心地よさを体感してもらいたい」と話している。
実証実験は、JR九州と、東京を拠点に地域素材の精油化やフレグランス開発に取り組む「SOU FRAGRANCE(ソウ フレグランス)」が連携。駅構内の「みどりの窓口」にオリジナルの香水が入った瓶ボトルを設置して、香りによって利用者の心理的ストレスを和らげることを目指す。さらに「折尾駅の香り」として定着させ、駅と人との新たな関係性に結びつけたいとしている。
採用した香水は実証実験のためのオリジナル品で、ピンクグレープフルーツやレモンのような香りが特徴のユーカリ・シトリオドラ、ヒノキなど14種の100%天然精油を用いた。香りを手掛けたのは同社代表で大分県出身の折井茜さん(34)で、木や柑橘(かんきつ)の持つ軽やかな香りをテーマに調香したといい、「深呼吸したくなるような、さわやかさ」が特徴という。
日本初の立体交差駅として歴史を持ち、多くの人が行き交う折尾駅の特徴もイメージに織り込んでおり、香水は「つなぎ目」や「間(ま)」を意味する“あわい”を採用し、「Awai―折尾ノ香」と命名された。
折井さんは2019年3月までJR九州の社員として車掌や駅ビル開発などを担当。退職後に香水業界に転身し、数々の調香に取り組み、国内市場で新たな香水ブランドの展開を図るなど活動の幅を広げている。水嶋駅長とは、かつて小倉駅で上司と部下の関係だったこともあり、連携しての実証実験の運びとなった。
折井さんは「お金を払って捨てられてしまう素材もあり、それらを精油として活用することで持続可能な取り組みもできる」と説明。「北九州産の素材を使うこともできるので、駅の香りとして定着させたい」と話す。久々となる古巣での活動で「原点に立ち返るような思い」と笑顔をみせた。
交通機関と香りを活用した取り組みは、空港のラウンジや観光列車などで採用されるケースはあるが、駅単位では珍しい。水嶋駅長は「(香りは)好き嫌いもあるが、自然由来のため香害にはならない」と歓迎。さらに「折尾駅は懐かしさと新しさを持ち備えた場所なので、香りで駅の質感を演出できれば」と期待を寄せた。
実証実験は9月下旬までの予定。駅利用者や社員の反応などを見ながら、香りによる空間演出の可能性を検討。駅のブランド再構築をはじめとする企画や取り組みに生かしていく考えだ。【橋本勝利】
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