第二次世界大戦で敗戦国となったドイツでは、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を引き起こしたナチス政権(1933~45年)の歴史を学校で丁寧に学ぶ。だが、第二次大戦から80年を経た今、移民の増加や極右勢力の台頭によって、教育現場は課題に直面している。独フンボルト大のトーマス・ザントキューラー教授(歴史教授法)に聞いた。【聞き手・ベルリン五十嵐朋子】
義務教育で「ナチスの歴史」学ぶ
――ドイツの学校では、ナチズムの歴史をどのように教えていますか。
◆多くの場合、義務教育最後の学年にあたる9年生(14~15歳)で学ぶ。歴史の授業が週1時限の場合、長くて約半年間にわたり学習することになる。
ドイツには、ナチズムに関する記念碑や資料館が国内に250カ所もある。うち約20カ所は強制収容所跡で、全て入場無料だ。授業の一環でこうした場所を訪問する学校も多い。
――学習内容は時代とともに変化したのですか。
◆50年代は第二次世界大戦そのものに重点が置かれ、ナチズムはその一部という位置付けだった。それも(ユダヤ人迫害などの)犯罪行為というよりは、ナチス政権を率いたヒトラー個人に焦点が当てられた。
80年代になると、ホロコーストをテーマとした米国発のテレビドラマが公開された影響などで、社会にナチズム、とりわけユダヤ人に対する犯罪行為の歴史と向き合おうという機運が生まれ、学校内外の教育機会の発展に貢献した。
避けられない罪や責任に関する問い
――歴史を教えるにあたり難しいことは。
◆ナチズムの歴史は、罪や責任についての難しい問いが不可欠で、感情を揺さぶられる部分がある。教員にとっては、他のテーマを扱う時のように「客観的」に議論を進めることができるか不安がある。冷静に授業を進めようとしても、生徒側も「普通のテーマじゃない」と気づいてしまう。
ナチズムというテーマには独裁体制、戦争、虐殺といったさまざまな要素があり、複雑だ。生徒が理解できるように伝えられるかどうかは、何より教員自身の正確な知識にかかっている。
――14歳というのは少し遅い気もします。
◆ナチズムによって奪われた命は、戦場以外で1300万人に及ぶ。私の考えでは、小さな子どもに向き合わせていいテーマではない。このテーマと対峙(たいじ)できるようになる年齢まで待つことは必要だ。
ただ、予定された学習年齢に達した生徒の多くは、学校で習う前にメディアなどを通じて既に何らかのイメージを持っている。中には「ヒトラーだけに責任があり、ドイツ社会は関係なかった」などと誤って理解をしているケースもある。授業では、そうした誤りを正していくことも求められる。
移民増加で反ユダヤ主義が学校現場にも
――ドイツは2015年以降、中東などから難民を多く受け入れました。学校にも難民や移民の子は増えています。
◆移民の増加によって、…
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