大阪・関西万博のにぎわいで大阪周辺のホテルの需要が高まり、開催中の全国高校野球選手権大会に影響が及んでいる。元々、インバウンド(訪日客)の増加でホテルが値上がりしていた中で、4月に開幕した万博は夏休みの8月は来場者が増えてホテルの空き部屋は少なく、応援に駆けつける保護者や学校関係者らは頭を悩ませている。
「本当は泊まりたい」
「万博もあるからなのか、(宿泊先の)選択肢は少なかったですね」
仙台育英(宮城)の保護者会長を務める大場久幸さんはこう語った。
3日に組み合わせが決まると、すぐに宿を探しにかかった。「空き状況や価格を考えると、選べるホテルは自然と限られた」と明かす。
宮城県から家族3人で観戦に訪れ、開星(島根)との2回戦前日の13日から、沖縄尚学との3回戦があった17日まで、大阪・梅田のビジネスホテルに宿泊した。料金は4泊で計8万円ほどだった。
宿の確保が難しく、「弾丸旅行」を敢行した人もいる。
準々決勝に進んだ日大三(西東京)のある男性保護者は、11日午後に組まれた豊橋中央(愛知)との2回戦でスタンドに駆けつけた。10日に地元を出発し、応援を終えて自宅に戻る頃には日付をまたいだ「0泊3日」の日程だった。
「万博(の影響)で安いホテルが取れないので、こちらでは泊まれていない。本当は泊まりたいですけどね」
一方で、チームと同じ宿舎に滞在できた保護者もいる。同じく8強入りした山梨学院の保護者会長、大石光泰さんがそうだ。
今春のセンバツ大会に出場した時から、ホテル側が「夏(の甲子園)は予約が取れないだろうから」と、一部の保護者分の部屋を確保してくれていた。
大石さんは「急にこちらに来ることになった人は、みんな『宿がない』と大変そうだ」と話す。
高まる大阪のホテル需要
阪神甲子園球場は兵庫県西宮市にある。アルプス席の保護者に話を聞くと、アクセスやホテルの多さなどを考え、滞在先に兵庫県内より大阪を選ぶとの声が目立つ。
応援に訪れる保護者や学校関係者にとって、宿泊先の確保や旅費はネックになっている。大人数になりやすいことに加え、滞在日数が勝敗に左右されるためだ。
加えて、近年はインバウンドの増加を背景に、ホテルが値上がりしている。
東京商工リサーチによると、上場するホテル運営13社(15ブランド)の2025年3月期の平均客室単価は1万6679円で、前年の同じ期間から12・6%上昇した。
中でも、大阪のホテル需要は高まっている。観光庁のまとめによると、今年5月時点の大阪府の宿泊施設の客室稼働率は81・9%で全国トップだった。
リクルートの「じゃらんリサーチセンター」の調査では、6月以降の国内旅行先として、大阪府が北海道、東京都に続いて3位となり、昨年の4位から順位を上げた。
大阪府への旅行目的は「お祭りやイベントへの参加・見物」が急上昇した。じゃらんリサーチセンターは「万博の影響があると推察される」としている。
万博の来場者数は7月は1週間あたり90万人台で推移していたが、お盆休みと重なった8月10日からの1週間は計約125万人と大幅に増えている。
費用削減へあの手この手
保護者だけでなく、吹奏楽部員やチアリーダーなどの生徒も、例年より宿泊先の確保が難しくなっている。
仙台育英は吹奏楽部員やチアリーダー、控えの野球部員ら計200人あまりが応援のために集まった。これまでは京都市内のホテルを確保していたが、今年は値上がりを受け、甲子園から遠くなる大津市内のホテルに2回戦から宿泊した。
宿泊代を節約するため、13日夕方にバスで学校を出発し、2時間おきに休憩しながら車中泊をし、14日の2回戦当日の朝に到着した。
ある教員は「半日も車内でしたから、さすがに疲れました」と苦笑いする。
関東一(東東京)は準優勝した前回大会、応援団の宿泊場所は京都府内だったが、今年は部屋をまとめて取るのが難しく、準々決勝で勝てば、滋賀県と京都府に分かれて泊まる予定としていた。
応援団の責任者によると、決勝に進出した場合の費用は行き帰りのバス代を含め、1人あたり昨年より1万円ほど増える見込みだった。
息子や友人が甲子園でプレーする姿をアルプス席から見守る応援団。その模索はこれからも続く。【深野麟之介、吉川雄飛、長宗拓弥】
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